三姉妹―一子、二子、三子の物語 第三話
- カテゴリ:自作小説
- 2021/11/22 10:57:53
第三話 クリスマスプレゼントを巡る四季
サンタクロースは両親である。クリスマスの設定の裏を知っている三人姉妹に、高岡父母は率直に言った。
「欲しい物を 考えておくように」
即答したのは|二子《つぎこ》だった。
「もう決まっているから前倒して受け取りたい。欲しい物は『植物詳細解説図鑑決定版 雑草図鑑アプリ付き』」
一子《いちこ》も三子《すえこ》も高岡父母も驚いて一斉に二子を見た。なんで見つめられるんだ、と二子はきょとんとする。高岡父《おとうさん》がコホンと気を取り直して言った。
「クリスマスプレゼントなのだから、前倒しは無理だ」
高岡父に一蹴されて、二子は肩を落としたがしょうがないと納得するしかなかった。
一子はネットで検索を始めた。ケチが信条であるゆえ、お小遣いをもらえばまず貯金が最優先になるのだ。|現物支給《クリスマスプレゼント》されるこの機会は有効活用したかった。
希望に沿い、予算上限を超えて却下されない、最適解を提出せなばならない。欲しい物は果てしなくあるなかで、取得選択を賢く行うことが重要なのだ。
「何をねだろうか」
一子のワクワクは止まらない。早々とリクエストを出した二子がさっぱり理解できなかった。
三子も勉強机の椅子に着席すると、頭をフル回転させ始めた。いかに充実した選択をすべきか、一子と同じく夢中になって考え始めた。
「一瞬の快楽を求めるのはつまらないものね」
三子の口元によからぬことを思いついた時に現れる悪魔の笑みが現れた。
一子の情報収集と調査は過熱する一方だった。実店舗のおもちゃ売り場コーナーにも足を運んだ。
「地道な調査が結果に繋がるんだ!」
たまたま雑草の写真撮影に外出していた二子は、ぶつぶつ独り言を言いながら歩いている一子を見つけたが声をかけるのは辞めた。
「幸せそうで何より」
そう言いながら、アプリに取り込む雑草の写真収集に勤しんでした。二子もクリスマスプレゼントを心待ちにしている気持ちに変わりはないのだ。
リクエストの締め切り日。
リクエスト済みの二子も、居間にやってきた。二子以外の全員が、なんで来たのかと視線を向けた。
「あたしだってお姉ちゃんと三子が何頼むのか、興味あるもの。興味持ったら駄目なの?」
さすがに二子もムッと不機嫌な声を出した。高岡母が、取り繕う。
「駄目なわけないのよ、ただ独自路線貫くのかな、と思っただけよ。アハハ」
「お母さん、全然フォローになっていないよ」
二子が突っ込みを入れてごねるが、三子がピシッと言う。
「二子ちゃんは、今日は単なる観衆なのを忘れないで」
三子の一言で二子は黙った。
三子の変わらぬ鋭い一言に、高岡両親は微妙な笑みを浮かべつつ、事を進めていく。高岡父《おとうさん》が尋ねた。
「一子は何をリクエストするんだ?」
「クリスマス商戦めがけて発売されるRPG『永遠の物語・限定版』」
話題の大作ゲームである。一子がガチガチの鉄板ゲームをリクエストするであろうことは、両親の想定の範囲であった。予算ギリギリを読んでくるのはさすがだな、と高岡母《おかあさん》は心の中で褒めた。
「三子は?」
「うん、ゲームなんどけど。月額五百三十円のサブスクのゲーム会員になりたいんだ」
一子と二子は、驚く。
「え、あの定番ゲームばっかり揃えた『ゲームの泉』のこと?」
二子が確認すると、三子が答えた。
「定番ばっかじゃないよ、体験版なんかも期間限定で遊べたりするんだよ」
「でも五百三十円なら、お小遣いでやりくりできるんじゃあ?」
すかさず値段に言及するのはケチな一子であった。
しかし、一子と二子の反応と正反対のひきつった顔で高岡両親は三子を見た。三子はわかっているよと高岡両親を見つめつつ
「変える気はない、です」
と言い切った。
三人が居間から出ていくのを見送った後、|高岡母《おかあさん》はぼそりと言った。
「三子、狙ってきたわね」
|高岡父《おとうさん》も同意する。
「我々に一番打撃を与える選択をしたよな。サブスクってボディブローの効き方するから」
「クリスマス用予算の一部をサブスク用に転換しなきゃ!」
高岡母《おかあさん》は付けくわえた。
「親としては早々と飽きてくれること、を願わなくちゃならないなんて」
「大事に遊べと言いながら、真逆な本音だよな」
高岡父《おとうさん》も脱力気味に声を洩らした。
リクエスト以降、クリスマスまでの期間を楽しんだのは、一子と二子であった。二子は淡々と雑草写真を増やし続けていた。
一子はRPG『永遠の物語・限定版』の口コミ評判がうなぎのぼりになり、予約受付けが停止になったニュースを、高笑いとともに迎え入れた。
「私の選択に間違いはなかった、わっはっは」
サブスクを選んだ三子は、理性を崩壊させて喜ぶ一子に冷たい視線を投げかけた。
「お姉ちゃん、興奮しすぎだよ」
クリスマスに向けて評判のいい体験版シューティングゲームをラインナップに加える発表をした『ゲームの泉』の地味目のニュースを見つけ三子は静かに喜んだ。
クリスマス当日。三人は希望の品|(三子には会員登録許可する旨のメモ)を枕元に見つけた。
一子は据え置き型ゲームにセットして早速ゲームにのめり込んでいった。
三子も会員登録を進めていく。会員登録が済みログインした『ゲームの泉』をいろいろ操作してみるうちに、いつの間にか三子ものめり込んでいた。
ゲームに興じる二人を横目に二子は、おまけアプリをインストールが完了すると、早速出かけることにした。雑草を見つけることが前提のプレゼントなのだ。
「あたしのクリスマスは、すでに始まってるからなぁ」
まだ冬だというのにクリスマスプレゼントを最初に飽きたのは一子であった。一子は思う。熱狂と興奮の絶頂はクリスマスのプレゼントを枕元に見つけた時であった、と。
『永遠の物語』は面白かった。区切のエンディングにもたどり着いた。ただ、一子が楽しかったのは、ゲームを選び、待つまでの間だったんだなぁと思ったのだ。『永遠の物語』は永遠の眠りについた。
春になった。三子がチョコレート菓子を持って帰宅した。二子が
「あれ、美味しそうだね」
と声をかけた。
「『ゲームの泉』の会員特典なんだ」
三子が答えた。一子と二子は関心して、唸った。
「そんな特典もあるんだ。さすが三子ちゃんだね」
と二子が言えば、一子も
「特典なら、私たちは資格ないね」
と言う。どうぞどうぞ、と二人に促され、三子はチョコレート菓子を一人で食べ始めた。ポリッと一口。もっと美味しくなかったけ? 一人で食べるのは案外、つまんないなぁと三子は心の中で思った。無論、そんな気持ちを顔には一切出すことはなかったが。
夏になった。二子は雑草の写真を撮り続けていた。
「新しい雑草、発見」
まだまだ植物図鑑とアプリは活躍しそうだ。
秋になった。三子が高岡両親に申し出た。
「十分、遊びつくしたので退会手続きしてください」
「いいんだな」
高岡父《おとうさん》が威厳をもって確認した。三子がもう一度うなづいた。高岡両親は内心、ほっと胸をなでおろした。クリスマスシーズンが再びヒタヒタと近づいている。一年前のクリスマスの決着がついたことに安堵した。
(『クリスマスプレゼントを巡る四季』 おわり)
了解しました。もし忘れてさんづけになってしまったら、またお声かけください。
創作に先輩も後輩もない、とは思うんです。面白いものは面白い、素敵な作品は素敵。
それだけだと思うし、それがいいし、そこがいいと思うんですよん
ジャンルの先輩にさん付けで呼ばれるのが恐縮で仕方ありませ
ん。ちゃんづけでお願い出来たら幸いです。申し訳ありません。
どうかお聞き届け下さい。
そう言ってもらえると、すごく嬉しいです。
創作するようになって、自分も他の方の作品に触れる機会が多くなりました。
皆さん、感性がすごいと圧倒されます。
俳句をやってるアヴィさんも尊敬しています。無駄を全部そぎ落とす言葉の切れを詠む、しかも季語のしばりもある、俳句の世界は奥深いなぁと感じます。
とても新鮮な刺激を頂いた作品です。
ありがとうございました。
読んでくれてありがとうございます。
子供の時のこと思い出すとああでもないこうでもない、確かにそんな感じだったなぁと思います。
最近しみじみ思うんですが、トシrotさんって感想がすごく上手いなぁと思います。
web小説の感想つける機会増えてきて、感想の下手さ加減にがっくりきています……。