Nicotto Town



南の魔女クレア13


更に其の青年はこう続けた。「ドレスは持ってなくても心配しないで良いよ。実は既にホテルのレンタルドレスを見てきてよさそうなのに目星を付けているんだ。」どうやらクレアを貧しいので授業料を払うために働いていると思っている様だ。どうでも良いが付き合いたいとも思わない女の子にドレスを用意してパーティにつれて行ってやると言う事らしい。
此れはクレアには「はい、喜んで行きます。ありがとうございます。」とそいつが期待しているような返答が出るわけがない。「お断りいたします。お客様、本を買わないのでしたらカウンターの前に居られては迷惑です。お引き取り下さい。」と言うとそっぽを向いてほんの整理を始めた。
今日は入荷が多いので其れを客が店に居なくなった時を見計らって其々の場所の本棚に入れておかなければならない。
しかも万引きが多いので儲けも少ないので人を雇う余裕がないという事はお爺さんの帳簿付けを手伝ってみて初めて分かった。
勿論「帳簿付け」も初めての体験だったが少しずつ習って行くうちにこうなっているのかと解って来た。其れと同時に利益がほとんどないという事が解って来た。
売れた本と残っている本が合わないのだ。
どの本が誰に売ったかを此の国は治安上の問題で「警邏隊」が提出要求すると其れを書いた台帳を提出しなければならない。
其の為に売った本の名前と購入者を書いておかなければならない。其の売った本の数と残っている本の数が合わないのである。
明らかにかなりの数が「万引き」されている。
どうりでトウニでは古本屋が多くあると思った。
クレアも此処で立ち読みをしてどうしても買いたいと思ったらトウニの駅前の古本屋で買おうと思っていた位である。
どうやらトウニの古本屋の真新しい本の出どころは此の店であるとクレアは思った。
これだものお爺さんが「万引き対策専門」として店の中で一番見える場所に椅子と机を置いて其処に陣取るはずである。
此れでトウニの入る店のカウンターから見える棚を合わせるとほとんどの死角がなくなるはずである。
其れでも本の数が合わないとなるとトウニが来る前に「万引き」が行われている様だ。
万引き犯をお爺さんが見つけても相手は集団でやってきて其の男を捕まえようとするのを何気に邪魔をするらしく老人相手にぶつかって来たとか持っていたものを落としたので弁償しろとか言いがかりをつけて其の対応をしている内に犯人が逃げると言う事らしい。
此の辺り一帯がそう言った士官学校の不良生徒の被害に遭っていた。
「警邏隊」に街ぐるみで訴えても「士官学校」に訴えても「なしのつぶて」状態らしい。

其れには訳があった。士官学校は1年生は200人入るが2年にあがるのは100人にも満たない。
一応100人と決まっているが2年への進学希望をしていても訓練の厳しさに脱落をしていく生徒がいる。そして初めから1年間だけ通う事にしている生徒もいる。
此処を1年間通っただけで就職先が「警邏隊」「刑務官」「郵便配達人」「お金持ちの家の私設警備員」と言ったある程度給料は高い就職先が出来るのだ。
其の1年でやめていく生徒の中には或いは1年も満たなくても自分が成績が悪くて2年に上がれないと解った学生の中には不良行為を繰り返す学生も多い。中には結構高い爵位を持った家の子息も居て捕まえても警邏隊も学校も処罰が出来ないと言う事があるらしく両方とも見て見ぬふりをするから此の町は被害が大きくなるばかりである。
クレアは其れも含めて士官学校の生徒に対して幻滅していた。
其の上にこんな失礼な事を言われたのである。此れは罰を与えなくてはいけない。
「あっ、本は買うよ。其のどれが良い?何かお薦めの本はあるかな?」
罠にかかったとクレアは思った。クレアは少し微笑むと奥の青い棚の上から3番目、左横から2番目の表革表紙が緑色の本がお薦めだと思います。」
其の青年は急いで其の本を取って戻って来るとカウンターの上に置いた。
「此の本でございますね。」とクレアは其の本を取るとカウンターの下から台帳を出した。
「台帳に記載いたしますのでお名前をお伺い致します。」「ボルアート・セルダスリア」クレアは其の名前を書いて復唱を大きな声でした。「ボルアート・セルアスリア様ですね。士官学校3年のボルアート・セルアスリア様・・・お買い上げの本は「女体の神秘と陰部の快楽」ですね。」と大きな声を其れを台帳に書き上げながら言った。
クレアは顔を真っ赤にして鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしている目の前の青年ににっこりとほほ笑むと「『女体の神秘と陰部の快楽』をお買い上げのボルアート・セルダスリア様、本のカバーはお付けいたしましょうか?
我に返ったのか「えっ!」と言うと彼は其の本の題名を読もうと其の本を手に取ろうとした。クレアは本をしっかりと自分の所に引き寄せると「『女体の神秘と陰部の快楽』をお買い上げのボルアート・セルダスリア様まだ本の御代金は頂いてませんので」と言った。 二人の青年はだまってお金を払うと本をもって出て行った。


クレアが店から出るとさっきの二人の青年が近寄って来た。
あれから1時間以上たっている。外でクレアが出て来るのを待っていたようだ。
ボルアートと名乗った青年が声をかけて来た。「兎に角僕たちの話を聞いて欲しい。決して怪しい物ではない。此れには事情があるんだ。話位は聞いてくれても良いじゃないか。」妙に神妙に話しかけて来る。二人はまた怪しまれて逃げる事を想定してとりあえず冷静に話を聞いてもらう事から始める作戦に出たようだ。

クレアの足の速さに合わせて一定の距離を保ちながらボルアートは離し始めた。友人がある女性をパーティに誘った事。其の女性の条件がセダルホテルのパーティ会場で開く事と其処は40人からの受付で自分達は10人以上集めるのでそちらも30人以上集めて欲しい。其の中の20人は少なくとも爵位を持った子息であること。残りは身内の女性でも使用人を連れてきても爵位を持ってなくても構わないとの事だった。
何でも彼女達の通っている学校は子爵令嬢とかトウニで大きな洋品店の令嬢もいるそうで最低爵位を持っている子息が20人はいないと恥ずかしくて貧祖なパーティには出席できないと言われたそうだ。

今更走っても門限は過ぎている。クレアは彼らが怪しい奴らでもないと判断して一定の距離を保ちながら彼らの話に耳を傾けた。
「其のパーティは何時やるの?」とクレアの言葉に二人の顔に明るさを戻った。「人数が集まらないと会場の予約が出来ないんだ。会場の予約は一月前だから人数が集まった其の後の一月後になるんだけど。僕と彼の二人が頼まれて・・・ドレスはこちらでホテルのレンタルドレスを借りるから費用は全部主催者の彼が払う事になっているから何の心配もないよ。
兎に角来てくれればいいんだ。つまり君ともう一人・・・。」クレアは学校の塀に沿ってしばらく歩くと塀の傍にある一本の木の所で止まった。
「友達に聞いて見るわ。其れで出席するかどうかを判断する。それとドレスは借りなくていいわ。少なくとも私の分わね。」と言うと手に持っていた夜食用のパンを口にくわえるとまるで羽が生えているか様に軽やかに登り始めた。
やがて太い木の幹を伝い歩きをすると塀の上に上がった。
そして塀の中にある木に移ると塀の中に消えて行った。




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