Nicotto Town



南の魔女クレア10


クレアが此の国の唯一の列車が通っている首都のトウニから此の士官学校のあるバスタ地方の一番大きな街の汽車の終着駅のゼルセカに付くのは最終便なので9時20分になる。
其の最終便から降りた人達が馬車を雇って其々の目的地の向かう人の為に数台の馬車が客待ちをしている。
殆どは士官学校の近くが駅前の次に士官学校の生徒や其の生徒目当ての商店や小さいが市場もあるので其処で降りる人がおおいのだがクレアが通っている服縫専門学校への道を曲がる所で規定料金が次の段階に上がって倍の値段になるのだ。
殆どの街では乗合馬車の乗賃も決まっているが馬車も組合が在って距離によって決まっている所が多い。
大抵は駅に馬車の種類と乗り賃の表が這ってあって一定の距離を過ぎると値段が変わるシステムになっている。
クレアの学校が其の距離が変わる所を通過する為に毎日曜日に最終列車で荷物を抱えて帰って来るクレアは常連客になっていた。
更に乗り賃が高くなるところを通過して直ぐにつく服縫専門学校に行くために乗合馬車が士官学校までならあるのに馬車を雇って更に乗賃が上がる所を通過して服縫専門学校の正門まで乗るクレアは上客だった。
其の為に荷物が多いために最後に降りて来て最終列車が今度はトウニまで出発してしまった後も荷物をよたよたと抱えて駅から出て来るクレアを態々待つ馬車も出て来た。
クレアが荷物が重いために士官学校まで行く乗合馬車の最終便に乗らない事を知っているのだ。
其の内に何台かの顔なじみの馭者さんが出来て彼らの馬車のどれかに乗る事が出来た。
お母様が買ってくれた休み時間の練習用の布は結構な重さになるのだ。
更にトウニの駅近くの菓子店買った菓子をもってと家に帰る時と家から帰って来た時の荷物が違うのもクレアの特徴で更に顔なじみの馭者さんに次の金曜日の2時半に服縫専門学校まで迎えに来て貰う事も馬車を下りた時に取り付けた。
其れまでは馬車に乗るために士官学校前まで歩かなければなかなか馬車は捕まらなかったのだ。

家に帰るとクレアはお母さまの部屋に行って学校での事を口早に色々話した。同室者がモニークと言うお母様も知っているトウニにある大きな洋品店のお嬢さんと言うのもお母様を安心させた。

しかも養子を貰って店を経営する為に工場で雇っている大勢の縫子たちや使用人を統括していくためにわざわざ一般コースを受験して其処で上位の成績で卒業する事を目的としている向上心のある子だと言う事はお父様も同室者としてふさわしい人だと喜んでいる事を嬉しそうにクレアに話した。何よりもお父様とお母さまがクレアが服縫専門学校に入った事を喜んでいる事がうれしかった。

クレアと同室者のモニークの二人の不満が食事にデザートが付かない事やベットが硬い事とカーテンが薄っぺらである事と床に絨毯がひいてない事とで二人ともがっかりして最初は部屋を見て二人とも呆然と立ち尽くして・・と其の時の事を話した時はお母さまは声を上げてお笑いになった。お母様はそんな事は予測が付いていたがクレアは想像もしてなかった。
更に爵位パスを持っているとサロンに行けるので二人で特別コースのサロンに行ってみたら簡素な椅子でとてもソファーと呼べるような物じゃないのにソファーがあるってサロンの説明に書いてあったとクレアは口をとがらせて簡素なソファの文句を言った。
紅茶もまずくて二人してショックで其処から帰る時はどんよりして無言で部屋に戻ってもしばらく何も言えなかったと言うとまたお母様はククッと笑いを堪えた。
其れもそうなのだ。お母様が通った爵位を持った子女が通う女学院でも公爵伯爵令嬢が入れるサロン以外のサロンはソファーは硬くてどちらかと言う椅子と言う表現をした方が良いような物だったし、お茶も安っぽくカップも模様が無い簡素な物だった。
其れでもお茶が出来るサロンがある学校自体が珍しいのだ。
女子師範学校にもそのような設備は無いし看護婦養成学校にも其の様な設備の部屋は無いのである。
お母様が思い当たる事ばかりで毎週帰って来て話すクレアの話が可笑しくてたまらなかった。

家に帰ってからもクレアは積極的に半地下にある縫子さんの部屋に通ってミシンの練習をした。
クレアが休んでいる間にも授業料を出すために工場に通っている生徒は何時間もミシンを扱っているのだ。
其の分彼女たちの腕はめきめきと上がって行くのだ。
クレアは時々縫子さんのミシンも借りて練習をした。
ミシンは一台一台其のミシン独特の癖があるのだ。どれとして同じミシンは無く微妙に違っているので色々なミシンの癖を見抜いてどんなミシンでも縫える様にしておかなければならない。

だいぶ腕を上げたクレアはお母さまにお願いしてジルドにあるテーラーさんが持っている縫い場のミシンを縫子さんたちに交じって縫わせてもらう事になった。
勿論賃金は貰わず寧ろ家庭教師代を払って一緒に縫わせてもらうのである。

最初は仕事の邪魔になると見ていた縫子たちも其の腕を認めて直線縫いの所は専門にクレアに任せる事にした。
其れは縫子の初歩の子が受け持つところだがクレアは見劣りせず其れをやってのけて他の人は別の仕事に専念出来て更にクレアが来ている2時間は賃金が家庭教師代として上がるのである。
クレアは色々な癖のあるミシンの扱い方を其の時習った。
上糸の引っ張りが強いミシンもあれば其の反対のミシンもある。
足踏みの緩いミシンもあればきついミシンもある。
最初に其れを見抜く方法や其の時の対処の仕方も其処で習ったのである。
更にちょっとした故障の直し方まで教えて貰った。
いちいちミシンの業者さんが直しに来るまで待っていたら商品が納入までに間に合わない事がある。特にダストリー家の奥様は仕上がりに厳しいので最上級の腕の縫子さんが専用に引き受けている事も其の時知った。

テーラーさんの5人の縫子さんに其れは親切に教えて貰って色々なミシンの故障の対処の仕方まで習ってクレアは其処に行くたびに自分が変わって行く事が解った。
農業だけがモノづくりではない。色々な物が色々な人が働いている手によってできているのだ。
お金を儲けると言う事はそう言う人達が働いている上になりたっているのだと言う事も解った。
そしてモニークの話をテーラーさんの縫子さんに話すと何十人もいる工場や仕様人の上に女が立って商売を切り盛りするとなれば其れなりの覚悟が必要で其の子は立派な子だと其の子の覚悟を理解した。
そして其の子とクレアが一位二位を争っていると言うとクレアが如何に頑張っているかを悟った。
そして此の間にも同じ歳で授業料を払うために工場で働いている子がいる事を言うと自分達が服縫専門学校に通っていた時を思いだして涙する人もいた。
クレアが其の子達と仲が良い事にまたクレアに対して親近感を持った事がクレアに惜しみなく色々なミシンの扱い方の知識を教える気持ちになった様だ。
クレアが来る事も最初は厄介なお嬢さんが来て仕事の邪魔になると不満を漏らす人もいたが直ぐにクレアを歓迎してくれるようになった。
其処での経験はクレアにとって大きな財産になった。
女でも自分をもって世間に引け目を感じずプライドを持って働いているのだ。




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