Nicotto Town



南の魔女クレア8


モーグさんはとりあえずクレアから取り上げた鎌を下の人達に投げる動作をして合図して下の人がどけると其の辺りに鎌を投げた。

其のわずかな隙にクレアはモーグさんからすり抜けると両手を蔓植物に掴むと足を少しずつ蔓植物の間を抜いては挟み込んでモーグさんから離れた。
モーグさんが無事に鎌が人に当たらず落ちたのを確認するとまたクレアを捕まえようと手を伸ばした時に其の頑固に壁に張り付いていた蔓植物が壁からはがれた。
クレアはずるっと下に蔓ごと50cmほど落ちた。
モーグさんが梯子を其れに合わせて数段降りると同時に壁に張り付いていた蔓が更にずるずるとはがれた。
クレアは其れに合わせてずるずると下に落ちた。
クレアが張り付いていた部分だけがはがれるのでクレアは次第に中摺り状態になり、やがってゆっくりと今度は其の蔓ごと後ろの方に倒れて行った。
モーグさんは慌てて下で受け止めようと梯子を下りた。
クレアは一旦薪小屋の屋根に落ちたが斜めになった薪小屋の屋根を転げると下に落ちた。
落ちたと言うよりも両手を蔓植物で吊らされた形で仁王立ちに着地した。
始めはキョトンとしていたが其の内にくるりとみんなの方を見るとしてやったりと言う得意げな顔をして両手に繋がっている蔓に手を見せたいのか其れを揺らした。
最初は周りの者はほっとしたがクレアの白い靴下に真っ赤な血が縦に流れて付いているのを見つけると悲鳴が当たった。
モーグさんがチッと舌打ちをすると「既に怪我をしていたか!」と怒鳴ると強引にクレアの手から蔓を奪い取るとクレアを抱き上げてメイド長の指示に従ってとりあえず応急処置の出来る部屋に運んだ。
其れと同時に誰かが医者を呼ぶんだと叫んでどこかに走って行った。
クレアは大きな広いテーブルの上に置かれると服を脱がされ始めた。
其れと同時にメイド長が男の人達は部屋を出る様に言って女の使用人の一人が男の人達を部屋から出した。
血をたどってパンツを脱がすとメイド長と周りにいた女の使用人はお互いに顔を見合わせた。
次第に声が明るくなった。
「まあまあ、此の子は心配をかけて」と誰かが言った。
やがてメイド長の指示で誰かが持ってきた毛布にくるまれてクレアは自分の部屋に運ばれてセリスとモニリスと更に良く解らない女の使用人とでお風呂に入れられて新しい服に着せ替えられた。
クレアは生理が始まったのだ。
一応呼びつけられた医者がクレアを診察して鼻との先っちょと腕を少しすりむいただけでふわふわのスカートを広げる何重ものパニエがクッションになったのと蔓植物の伸縮する性質とゆっくりはがれたのが幸いして大した怪我をしなかったのだ。
其の日の夕食はクレアは自分のやったことが怒られるのかと思ったが周りはニコニコと妙に嬉しそうだった。
クレアは意味が解らなかった。
一応生理についてはモニリスとお母様とセリスにそれぞれが其々の言葉で詳しく教えてくれた。
だが次の日もクレアの訳の解らないイライラは止まらなかった。
夕食の時にイライラの原因の一つであるモーグさんが手入れをしていない場所に付いて説明してくれた。
其の場所は使用人専用の館からの出入り口と使用人専用の館の塀の出入り口の辺りで其処をモーグさんが手入れをしてお父様が其れを確認する為にしょっちゅう行くと使用人が窮屈に思うので其処の手入れは使用人に任せているのだそうだ。
なんとなくしか意味が解らなかったが要するにモーグさんでは無くて其処の掃除を任された使用人がいて其の人が掃除の時に邪魔な草や木を切っているそうだ。
モーグさんによると壁に張り付く蔓植物はモーグさんが管理している所には一つも無いが油断をすると種子が風で飛んできてどこかに気が付かないうちに根を張ってあちこちに侵食する厄介な奴だそうだ。
其の家の好みで業と植える人達もいるがモーグさんは丁寧に見つけると始末をしていた。
其れがモーグさんの庭の特徴だった。
其れは其れで納得したがクレアの生理が来るたびにふつふつと心に沸いて来る訳の解らないイライラは止まらなかった。
ある日目を泣きはらして夕食にやって来た。
お母様が訳を聞くと今日モニリスと読んだ本の王子様がひどすぎると言って泣いた。
何度も王子様が助けに来るのが遅すぎたせいでお姫様は悪人に牢屋に入れられていたそうだ。
もっと早く助けに居ればお姫様はそんな暗い牢屋に入れられずに済んだのにとクレアは言った。
「私なら王子様にありがとうとお礼を言う前に来るのが遅いとひっぱたいたわ」とクレアは言った。
クレアに言わせると隣の国のお姫様が「助けて」と言ったらすぐに駆け付けて助けるのが王子様だそうだ。
ピーターお兄様が「どんなところに居ても?どんなに離れていても?」と聞くとクレアは「そうよ、『王子様』は其れが唯一の仕事なんですもの」とあっさりと言った。
ピーターお兄様が何か言おうとするのをお父様が止めた。
「そうだ、其れが「王子様」だね」と言ってクレアを見てにっこり笑った。
お母様もクレアにうなづいて見せた。
少し気が済んだのかクレアは黙って行儀よく食事を始めた。
またある時はクレアはイライラしているのか食器をカチャカチャと鳴らして食事をしていた。
月に一度はクレアはイライラしながら食器を鳴らして食事をするときがある。
周りの者は其れで今日が何日ごろか解る様になった。
其の日は特に酷かったクレアはフォークを持った手をぶらぶらさせながらジャガイモを一つ受けから勢いよく刺してどこか一点をにらみつけながら口に運んだ。
流石にお父様が「クレア、何かあったのか?」と聞いた。
クレアはすかさず「私は世界一不幸な女だわ」と言うと泣き出した。
どうしたの?とおかあさまに話してちょうだい?と優しくお母様が言ったのでクレアは「今日モニリスに酷い事を言われたの。誰も私の味方をしてくれないといったのよ。世界中のだれもよ。」と言った。
お父様が何があったのかの尚も聞くのでクレアは今日は本棚の本を片っ端からなげつけたくなったからそうすると言ったの。そうしたら其れを全部私が元の場所に戻さなければならないと言うのよ。
誰も片付けてくれないの。全部自分で片づけなければならないのよ。
世界中の誰も片付けてくれないのよ。誰も味方はいないの。そうしたら全部自分で片づけなければならないの!そんな大変な事私は一人で出来ないわ。
一人であれだけある全部の本を元に戻さなきゃならないなんて!其れを考えると本を投げつけたくても出来ないのよ。だって誰も私の味方は無いのよ。
私は世界一不幸な女よ。」と言って泣き出した。
ピーターお兄様が「やれやれ毎月毎月世界一不幸な女が泣きわめくのか」と言った。
クレアは「お父様今日は食欲が無いので此れで失礼して部屋に戻って良いかしら」とピーターお兄様をにらみつけて行った。
お父様は其の迫力圧倒されながらも「ああ、そうしなさい」と言った。
「世界一不幸な女のお帰りだそうだ」ピェールお兄様が其れを見て言った。
クレアはきっと少し振り向いて肩越しにピーターお兄様の方を見ると「食欲がなく落ち込んでいるレディに対して失礼だわ。」と言うとプィときびすを返すと勢いよくドアをあけて顔だけ少し振り向けて「私はもう悩みが多い大人の女よ。男には解らないのよ」と言うと首をやれやれとでも言う様に横に振ってバタンと音を立ててドアを閉めて出て行った。




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