Nicotto Town



仮想劇場『苦し紛れアタァァァァッック!!』


「またこんなところに迷い込んで・・・」と彼女が言った。
「こんなところだから迷い込んだのさ」と僕は言い訳する。

 僕の素顔を覗こうとして、僕に憑りつかれたあの人のことを想うたび真っすぐ歩くことが困難になる。だからこそ出口のない町で死に体のまま彷徨うほうを僕は自ら選ぶのだ。

「そんなの言い訳にもならないじゃない」と彼女が言って、握りこぶしを僕の目の前でパっと開いた。洗いっきりの風がふたりの相中を吹き抜ける。

「外面が全てさ」と僕は言う。

 中身に意味や価値を見出そうとはするな。ここでは表面に被せられた一枚だけに自己の全てがあるのだ。むしろ中身に頼るから傷つくのだ。
 この皮にびっしりと書き込まれたコミュニケーションの記録は、とても重要で意義あるものだし、君やあの人にとっても安っぽいものではないはずだし。

 だから僕は何度でもここに帰ってくる。
 ここが薄皮一枚の僕の出発点であり、そして中身を失くした僕の生れ故郷だから。







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