Nicotto Town



露芝に泣き、露芝に笑う


秋の半ばの法事のあと、精進落としをどうしようと悩んだ末、
独居の従妹のマンションで親族に手料理をふるまうことになった。
マスク会食というのは高齢者にはツライし興もそがれるわけでして。

従妹は部屋を片付けるついでに座布団カバーを新調し、
当日飯食いながら可愛い柄を自慢した。通販で頼んだそうだ。
色は初秋らしく上品な薄紅、露芝模様と小動物が楽しげに遊ぶ。

さて叔母が演説を始めちまった。
「いい柄ね、でも貴女も知ってると思うけど……」
知らない私は真剣に聞き、内心不勉強を恥じていた。

露芝という柄は草を象った円弧に大小の露をあしらった、
和服としてはおそらくありふれた柄なのです。ですが。
歌舞伎という「教養」を持つ人の目にはこうも映る。

歌舞伎で道行(心中のことです)に向かうお染の衣装は、
必ず裾が露芝柄、ゆえに露芝=心中の隠喩となるわけで。
従妹はムクれ叔母と言い合いになり叔父達は微笑、アタシは沈黙を守った。

仲人務めた若夫婦が挨拶に来た折なんかに、露芝柄の座布団勧めたら、
暗に心中しろと言ってるようなものになる、とも言えるのです。
こういうところが伝統のオソロシさですよね。

古典的教養と社会常識の観点から考えりゃ100%叔母が正しい。
知らずによそさまで恥を掻く前に身内が指摘するのが「しつけ」です。
だがせめてもの心づくしと座布団カバーを買った従妹の憤懣もわかる。

従妹も歌舞伎を知らないわけではなく、私より遥かに観ている。
露芝の知識もあったろうが、秋らしい柄で小動物も可愛いし、
意匠として気に入ったから選んだのだ。それなのに正論で貶すか!?

両者ともに状況を考え渋々矛を収めたが、私には勉強になった。
親族は和洋問わず古典芸能を一通り鑑賞し多額のお布施も納めている。
こういう連中がふとした折に披露する知見、私はありがたく頂戴する。

家、親族というものに恵まれた者の役得だと思う。
傘寿越えたジジババが、形見分けとして知見を披歴する、
それをありがたく頂戴するという風俗も「やまとごころ」であろう。

西洋にもいくらでもあるんですよね、タータンチェックの柄とか。
そっちまでは手が出せないけど、テメエの国の文化風俗は身につけたい。
話題を変えようと、次の歌舞伎座への同行を申し出た私はちゃっかり者です。




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