三姉妹―一子、二子、三子の物語 第二話後編
- カテゴリ:自作小説
- 2021/09/23 16:18:18
シュークリームを巡る午後 後編
追加で買ってきたところで、二子は十個目のシュークリームを食べ始めたところであった。幸せに満ち溢れた顔が、一子の勘に触った。しかし、追いシュー五個の入った紙包みを二子に黙って見せた。
「もうお腹いっぱい、だからお姉ちゃんと三子が食べたらいいよ、美味しいよ」
幸せの絶頂の二子が、完全に浮いてまま呑気に追いシューを二人に勧めた。
「理解していないようだけど」
一子がその怒りの沸点に達した。
はっとして三子は『一子が壊れた』ことに気が付き焦る。この状態になった一子は本来の一子の性格ではなくなるのだ。三子にも手が付けられないデンジャラスな状態である。
「もっと食べて」
一子が二子に言った。
「二子のために、お姉ちゃんは買ってきたんだから、ね」
シュークリームが五個入った紙袋を、一子は二子の眼前に置いた。
「食べて」
二子は事態がただならぬ事にようやく気が付いた。一子は追いシューを食べ切ることを要求しているのだ。どうやら幸せを味わうことを望まれているわけではないと気が付き、二子の顔が引きつった。
「もういらな……」
「食・べ・て」
一子に気圧され、二子は十一個目のシュークリームに手を伸ばした。
口がさっと開かなかった。大好きなシュークリームに対して、これは異常事態であった。
混乱しながら、十一個目と十二個目を吞み込むように食べて、二子はショックを受けた。なぜならば。シュークリームを美味しいと思わなかったからだ。
手が一瞬止まったが、一子と三子の視線が二子が止まることを拒絶していた。
二子は十三個目のシュークリームを手に取り、じっとそれを眺め。しばしの沈黙の後、
「お姉ちゃん、三子ちゃん、一個づつシュークリーム食べてもらえませんか?」
二子が泣きそうになりながら頼んだ。
二子の追い込まれた空気感に、三子もやり過ぎたことを悟った。悟ったがこの状況を修復する方法まで考えていなかったのだ。お姉ちゃん、なんとかして……。
「お姉ちゃんのおごりだから、お姉ちゃんの判断に従うから」
三子がポソリと言った。
二子と三子の視線が、「姉」に注がれた。壊れていた一子は、はっと気が付く。今の状況が続くのはまずい、なんとか打開するべきであり、その判断は自分に委ねられている。しっかりせねば!
「みんなで一個づつ食べようか? 二子は手に持った十三個目、食べれる?」
一子はいつもの一子の口調を取り戻すと二子に尋ねた。二子は安堵して涙声になりながら言った。
「うん、十三個目、いただきます……」
一子は三子にシュークリームを渡し、自分もシュークリームを持つ。
「いただきます」
三人はそれぞれ心に思いながら、シュークリームを黙々と食べた。
二子は、目を瞑って十三個目を口に入れた。さすがにこれが限界だった。
三子は、己の作戦が一子をデンジャラスゾーンに突き落としたことにしょげていた。
一子は、千五百円の小遣いが失われた悲しみが再び襲ってきていた。
食べ終わると三人はいっしょに片付けをした。三人で始めたことは三人で終わらせるのだ。
その日、帰宅が早かったのは高岡父《おとうさん》だった。
「三人ともどうしたんだ?」
それぞれが、それぞれに抱えた打撃で、ぐったり、放心した目で、高岡父を見返したのであった。
その後、二子はシュークリームが大嫌いになったのであった――。
(おわり)
読んでくれてありがとうございます。
きょうだいの攻防、三人とも痛い目にあってる感じに書けていればいいなぁと思います。
三子も、壊れた一子は怖いので、かなりビビッています。。。
一子は貯めたお小遣い減ってこれまた打撃きているし
とはいえ、一番可哀そうなのは、やはり二子だなと書いていて思いました
三人の攻防が面白かったです。(*^^*)
二子は一生分のシュークリームを食べてしまった、まさしくそうだと思います…(ーー;。
>トシrotさん
おやつの配分でケンカ、ありますものね!
嫌いになるほど、追いつめたら駄目じゃんと思います。二子が、一番可哀そうなお話
だと、自分は感じています(^^;;;
自分自身の抱える嫌な気持ちを思い出してしまいました。
二子は一生分のシュークリームを食べてしまったんだね、きっと。