卒業
- カテゴリ:自作小説
- 2009/10/17 12:00:06
桜って、好きだ。
桃色の花びらが、ひらひらと舞い降りる。
そんな光景を想像しただけで、心が温まる気がした。
現実逃避?違うはずだ、多分。
三月。まだ肌寒い季節。
半袖はさすがにきついということに気づく。
世界中の人みんなが半袖になったら、春が早くくるんじゃないか?
ぼーっと畳の上にねっころがったまま、カレンダーを見る。
春休みまであと、四角が五つ分。
五日間って意外と長いんだ。
私立中学の入試に落ちてから、私の毎日は変わった気がする。
なんとなく、だけど。
私は一体、何のために勉強をしていたのだろうか?
自問自答を繰り返すうちに、わけが分からなくなってくる。
結果ゆえの経過?経過ゆえの結果?
そんなのどうでもいいことなのだろうか?
私の部屋は、本でいっぱいだ。
参考書は、中学を落ちたときに全部捨てた。
本棚からこぼれ落ちたものも、そのまま放置。
空き巣か何かが入ったときのように、すっごくカオス。
ずっと和室で寝転んでるのも、そんな部屋も見たくないからでもある。
あーあ。
そういうと、私の未来は少しだけ救われる。
残念な状況だって、わかってますよ。
最悪なパターンだって分かってますよ。
人が分かってることをわざわざ言う人間って、一体何なのだろうか。
試験の結果発表が終わった日。
親友の加奈は、落ちたことを知ると、私にこういった。
「由紀はがんばったよ!!みんなと同じ中学でもきっと楽しいよ!だから、元気出して?楽しく過ごそうよ」
そんなこと、あんたに言われたくないっつーの。
分かってる、落ち込んでなんかない。
ただ少し、少しだけ分からなくなってるの。
思わず、「そんなこと加奈に言われたくない」って怒鳴ってから、一言もしゃべらないまま。
学校でも、わざと避けているように、加奈は居なくなる。
べつにいいもん。
強がりなんかじゃないことを祈る。
ちょっと外に出てみようかな。
そんな風に思い、私はサンダルをはく。
家の中でも寒いのに、外はもっと寒い。
上着を着てこなかったことを後悔したけど、取りに行くつもりはなかった。
「家出したいな……」
ふと思う。
もし私が、全部捨てて、旅に出れたなら。
どれほど、私は幸せになれるだろうか?
今のままだろうか。すごく幸せなのだろうか。
それとも……。
私は自分が卒業文集になんて書いたのか忘れてしまった。
私は不幸な子ですかね。
なぞは深まる。
久しぶりに見た空は、寒い風をあらわすように、真っ青だった。
雲のない青い海は、美しさより怖さを感じた。