【第7話】青空の行方~ゆくえ~
- カテゴリ:自作小説
- 2021/08/24 20:53:17
林間合宿の初日の夕方、学園生徒たちはそれぞれ指定された炊飯場所に班ごとに散って何やら慣れない手つきで夕食の料理を作っていた。
日が傾くと、一気に気温が下がる。日中は長そでのジャージ袖をたくし上げていた拓海も、今は手首まで下ろしていた。
「それにしても先生…凄かったよね…」
「ああ、そだな…沙也加」
しかし、拓海の隣にひょいっと座ったのは沙也加…ではなくて宝生結衣だった。
「誰と間違えてるの?椎名さん?」
拓海は慌てて、
「あ、いやそのっ…ごめんごめん。いつも俺の隣にいるのは沙也加だったからさあ」
「へぇ…仲いいんだね、拓海って椎名さんと」
ワイワイ言いながら、拓海の班は夕食のカレーライスの準備をしていた。野菜を切るのは、調理同好会の中宮由紀菜。ふうふう言いながら火を熾すのは一平。そしてその火のお守りをしているのが拓海だった。
向こうで、飯盒使って8人分のご飯を炊いている即席の石で作ったカマドの前に、天塚楓と、言葉少なに団扇で火を焚きつけている由宮…そんな感じで何となく適当に散らばっての夕食準備の風景だ。
「あのあと、めっちゃ槇原先生、俺たちに激おこだったよな」
「そりゃ仕方ないでしょ。ちゃんとそのまま合宿まで歩いて行けばあんな事件も起こらなかったんだし…」
結衣の顔は、グレーに薄く陰っていく風景の中で、焚き火に照らされていて。その姿から拓海は何となく目を離せないように。
「でさ…拓海?」
「なんだい?結衣…?」
結衣はちょっとだけ目線逸らせる。その横顔は、長いまつ毛が焚き火の光を浴びてつやつやと輝いている。
「ん… なんでもなーいっ!」
と、立ち上がった結衣は、んっと小さく伸びをして笑っては
「飲み物取ってくるね!」
そう言葉を残して管理棟に向かって駆け出して行った。
取り残された拓海は、ちょっと肩竦めては、飯盒でご飯焚いている方のカマドに目を遣った。
そう、さっきから気にしていない振りをしていたが、気になって仕方ない方向をだ。
飯盒の下の焚き木を突きつつ(拓海が気になって仕方がない)楓と並んだ由宮。
「さっきはホントにありがとう、由宮クン…」
ふわっとしたツインテの髪が左右に振られ、色白の首すじに焚き火の灯りが揺らめいてる楓の姿。
しかし由宮は、無言で細くなってきた火を復活させるために焚き木を継ぎ足していく。
「もうね…由宮クンがほんと、ナイトに見えたんだよ!?あのおばさんってマジ怖かったし…」
「…」
楓が話しかけてもあまり反応を示さない由宮。 なんとなく気まずい雰囲気が流れていた。
楓をシェパードから助けた時の颯爽とした姿はもう全くかけらも見せず、普段のままの寡黙さに戻っている由宮に、それでも何やかやと話しかける楓。
「おいおい、そんな無口な奴はほっといて、こっちでコーヒーでも飲まない?」
一平が離れたテーブル席から楓に声を掛けるが、彼女は聞こえているのか聞こえていないのか、由宮の傍から動こうとしない。
「なんなんだよ… 天塚さんがあんなに頑張って話しかけてるのに、無反応なんて神経疑うわっ!」
焚き火の中に掴んだ小石を思い切り投げ込む拓海。火の粉が辺り一面に散らばるのも全く意識しない様子だった。
楓が、疑うまでもなく由宮に興味を持っている…というより惹かれていっている様子を横目で見ては、拓海の心の中は穏やかではない。
「たーっくみっ!何やってんのよっ!」
声を掛けたのは、想像通り沙也加だった。手にはペットボトルのコーラを2本掴んでいて。
「さ これあげるから冷静になってよ。天塚さんと由宮クンが仲良さそうにしてるからって、そんなに癇癪起こさないでさぁ?」
からかうように、しゃがんでは顔逸らす拓海を見上げてペットボトルを差し出していく。だか沙也加の表情は少しだけ曇っている。それを押し隠すように大きな声を出しては、
「拓海コーラ好きだったよね?あ、でも…今はコーラよりもっと好きなのがあるのかな?なんかヤキモチ焼いてるみたいでみっともないって!」
「…うるさいなっ!!」
拓海は、差し出されたコーラを乱暴に手で振り払った。
音立てて転がるペットボトル。
一瞬、固まり言葉をなくす沙也加。
「ごめんな…。でも、そうやってからかうのはちょっとな…。俺だって、そうゆうのやだなって思うときはあるんだ…」
気まずい空気が二人の間を流れる。拓海は立ち上がって、炊飯エリアから離れた木立のほうに歩み去っていき。
「なんだよ、拓海… バカなんだからもう…」
沙也加は転がったペットボトルを拾い、彼の背中を見つめ、そして俯いて。
合宿初日、それぞれのドラマは始まったばかりのようだった。
(続く
若い頃は、気になる人がいるとか、ヤキモチとか、、
それだけで、ドキドキな毎日ですよね~!
CSI科学捜査班が好きなので登場人物色々は楽しみ~♪