Nicotto Town


あなたに会えてよかった♪


【第6話】青空の行方~ゆくえ~


「だからっ 誰がうちのペテロちゃんにこんな大けがさせたのよっ!隠してないで君たち、正直に言いなさいっ!」

青筋を立てて怒るってのは、こんな感じのことを言うのだろう。頭から湯気を出さんばかりに罵ってくるその中年マダム。
ついさっきまでのほっとした雰囲気が、あっという間に掻き消えていったんだ。

「ねぇ…拓海… 由宮クンは悪くないよね?」
立ち尽くした拓海は、縋り付くように寄り添ってきた沙也加へ、硬い表情のまま
「そうだよ悪くないよ…あの犬が、天塚さんに急に襲い掛かってきたんだもんな」

するとその会話を耳ざとく聞きつけたマダムは
「あなたたちっ!何を勝手なこと言ってるのっ! その感じだと合宿かなんかに来た都会の高校生ってとこかしら?学校名を教えなさいっ!」

由宮涼は、竹刀がわりに掴んだ木の枝を構えたままマダムの方を振り向いた。
しかし彼女の剣幕に押されたのか、黙ったままだ。

「うちのペテロちゃん、可哀そうに… 分かったわ。あなたがケガをさせたのねっ!」
マダムは標的を見つけたように、涼に向かって肩を怒らせて進んでいく。
「いえ …その…」

そうだった。涼はクラスでも目立たないおとなしい奴。こんなおばさんに食って掛かられて戸惑っているに違いない。
せっかく英雄的な行動で天塚楓を助けたのに…

周囲にいた拓海や沙也加、へたりこんでいる楓、そしてちょっと離れた場所に立っている一平と結衣は固まったように動けなかったんだ。

「あんた動物愛護法って知らないの?! 無垢なペットの犬に、そんな棒を振りまして、しかも怪我までさせてっ! さあ、学校名と名前を言いなさい!引率の先生に厳重に抗議するわっ!いやそれだけじゃない。警察に届けてあんたを少年院に送ってやるからねっ!」

先ほどまで欠片が残っていた有閑マダム的な雰囲気はもうどこにもない。最早鬼ババアだ。

「ねぇ…拓海っ なんとかしてよ!」
「あ …うん、でも…」
沙也加はちょっと呆れたように
「ほんとっ 役に立たないんだからっ!」

マダムは茫然としたままの涼の手を掴んで勝ち誇ったように
「さっ 先に警察に行くからね!」
「そ…そんな、困ります…」
消え入るような声で抗議するが、涼は女性にしては大柄なマダムに手を引っ張られていく。

マズイな…

拓海が思ったその次の瞬間だった。




「奥さま… うちの生徒が何か?」





そう呼び掛けて登場したのは…

槇原先生とスマホ手にした辰衛健人だった。

マダムもかなり怒り狂っていたが、槇原先生はそれを凌がんばかり、陽炎のような怒りのオーラを発散している。152センチと小柄な身体が、実物以上に大きく見えていて。

「あなたが先生?ちょうどいいわ。この男がうちのかわいいペテロに暴力を振るってケガさせたのよっ!警察にお付き合いいただきますからね!」

吐き捨てるような言葉にも全く怯まず、槇原先生はゆっくりと歩を進めていき、マダムに触れんばかりに近寄ると、相手の顔を見上げてはにっこりと笑って(これがめっちゃ不気味なのは、生徒たちみんな知っている)

「違いますね。奥様のかわいいかわいいペテロちゃんが、うちの目の中に入れてもいたくないくらいかわいいかわいい生徒の1人に、先に襲いかかったんですよっ!?」

「そんなわけないわ!賢いペテロちゃんはそんなことしないからっ!」
氷の微笑を続ける槇原先生は、抗弁するマダムを哀れみの表情で見て、

「うちの生徒が持っていたお菓子に向かって飛びかかって行ったんですよ。私はそれをはっきり見ました。よっぽどお腹が空いてたんでしょうね。たぶん、奥様の賢いペテロちゃん、我慢できないくらい空腹だったんじゃないかって思いますけど?」

マダムはちょっとだけ怯んだようだったが、それでも体勢を立て直す。
「ペテロちゃんはちゃんと躾けてるんだからそんなことしないわよっ!どうせあなたの生徒が、お菓子を振りかざしたりしてペテロちゃんをからかったんだわ!だからあなたたちが全面的に悪いのっ」

「いえいえ 奥さん。あなたのかわいいペテロちゃんが、何もしてないうちの生徒に、先に飛びかかってきたんですよ?」
余裕かます槇原先生。

そしたら焦り始めたマダムが、きっとした表情になって大きな声を出したんだ。
「そんなっ 証拠、証拠でもあるのっ!」

おおっ! それってフラグだろ?フラグだって!

そうみんなが思い始めた時だった。槇原先生の背後にいた辰衛健人が進み出て、無言でスマホの液晶画面をマダムに見せて言った。

「あ、私はシネマ部なんで…いつでも動画撮影できるようにスマホスタンバイさせてるんですよ。で、さっき偶然撮影した動画があるんですけど、見てください」

その動画は拓海たちには見えない角度だったが、マダムの表情を見ているだけで何が写っていたのかは一目瞭然だった。

「しかもさっき奥さまは『動物愛護法』のお話されてましたね。その法律に基づいて各都道府県では条例を制定しているんですよ?もちろん上品なマダムのあなたはご存じでしょうけど。飼い犬にリードを着けずに放していたら、その条例違反になりますよ…?それでも警察に、私の生徒たちを突き出すとでも?」

余裕かまして、追い打ちをかける槇原先生。
逆にあわあわとした表情になっていくマダム。

「それに、あんな小さなお菓子に飛びついてくるなんて…よっぽどお腹が空いてたんだと思いますよ?ペテロちゃんって、飼い主にちゃんと餌をもらってたのかしら?そのあたり突っ込んで調べていただく必要がありますよね。『動物愛護法』と、それに基づく条例に従って…ですよね?」
更に攻め手を緩めない槇原先生。

横綱相撲だった。
(続く

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2021/08/21 12:13
サラサラと流しそうめんみたいに一気読みしましたっ!
でもでもでもー
わたしの脳内で登場人物の把握がちゃんと出来てないから
もーいっかい最初から読みます(๑ゝڡ◕๑)テヘッ
だがしかし…いいねは押していくw

天塚楓ちゃんがソニーさんってことはないよね?
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2021/08/20 23:14
先生さすが~!
けーすけさんも法律詳しい?

林間学校まだ始まってないけど大混乱の始まりだね・・・
アバター
2021/08/20 22:32
勝負ありぃ~~~~~~(#^^#)

怒ると怖い槇原先生、カッコイイ(⋈◍>◡<◍)。✧♡




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