【第9話】黄昏のソロキャン
- カテゴリ:自作小説
- 2021/07/02 21:56:28
今回も神田さん視点でのお話です。お間違いのないように…
「へぇ…神田って車持ってたんだね。てか運転荒くないか?」
「そんなことないですよ、こう見えて私は運転マスター女子なんですから」
都心から車で1時間ほど走れば、黄昏高原キャンプ場っていうめっちゃ初心者向きのキャンプ場があるんだ。
私はソロキャンデビューのときに、何度もここに来たことがあるけど、何となくキャンプに慣れ始めてからはご無沙汰だったの。
何で初心者向きかっていうと、オートキャンプ場の隣にコンビニがあったり、薪や炭、キャンプ用の必要品がそこで品数揃って売ってたりして、アクセスも(車がなくても最寄り駅から歩いて20分くらいと)近くて便利だからだよ。
先々週、天塚クンや沙也加さん、クマさんやしずかさんとキャンプに行ってきたんだけどさ。
なんだか、ちょっと重苦しい感じで、心の底から楽しめなかったの。
それが何でなのか、はっきりとわからなかったので、余計にきつくて。
天真爛漫な沙也加さん、おっとりしてるけど冗談がするどいしずかさん、空気読めないクマさん…そして、なんだか、あたしと話してる時だけすっごくズレてた天塚クン…
ん 分かってるんだ。本当は。
天塚クンと話するのがちょっと辛くて…
で、キャンプから帰ってきた夜、片づけを終えてふぅ、ってしてたときにスマホが鳴ったんだ。
佐々木さんだった。
「やあ神田、昨日は誘ってくれたのに行けなくてごめんな」
「佐々木さん…いいんですよ。こっちも大勢で楽しくやってましたから」
「ならいいんだけどね。 俺さ、キャンプなんてしたことないから、月末の週末なら予定ないから、行ってみたいんだけどね…」
ぁ…あ…
あたし、誘われてる…
「じゃあ、今度こそキャンプします?あたしちょうどいいビギナー用のキャンプ場知ってますよ」
ぁ…あ…
すらすらって言葉が出てくるのは、佐々木さんが相手だからなのかな?
昨夜の(誰も気づいてなかったかもだけど)重苦しいような会話から解放されて、気が楽になってたのかな… ついつい受けちゃったの。
いいのかなって…心の底で思いつつ。天塚クンに悪いなって…思いつつだけど。
必要な最低限のものだけメッセージで送っておいたから、佐々木さんはちゃんとそれを揃えてきてた。
車の外の景色は、あっという間に流れて青空に飛び込むように消えていく。道沿いの、もう営業してないドライブインや果物販売所が流れて去っていく。
「神田さあ…付き合ってる彼とかいないのか?俺なんかと一緒に2人でキャンプに来てていいのか?」
悪戯っぽく笑う佐々木さん。
5月の月末の、しかも週末。キャンプ場はあちこちでたき火の明かりが。そしてその周囲から楽しそうな笑い声が。でもそれってなんだか遠くに感じるの。
なんだろう… いいのかな…
「ん…いいんですよ。大丈夫ですっ!あ、佐々木さん、そこのお肉、焼けてますよ?」
「ん…ああ ほんとだ」
苦笑しながら肉を摘まんで口に入れる佐々木さん。
ほわっとその横顔を見てしまうあたし。
「でも俺、知ってるぞ?年下の彼がいるだろ?」
不意を突かれたあたしは、手にした缶ビールを思いっきり落としちゃった…
「ぇえっ… な、なんでっ…」
佐々木さんは小さく笑ってから、あたしが落とした缶ビールを拾ってくれて
「だってな…」
「はい…」
「当たり前だろ?そんなこと」
はい?
何が当たり前なんでしょうか?佐々木さん…?
「神田がバイトに来たその日から、俺さ…」
んっ??
なんか、これって、いわゆるあの…
フラグですかっ?!
そう思った瞬間、意外にたくましい腕が、あたしの腰を抱き寄せていったんだ…
(続く
意外にたくましい腕が~~~キャァ・・・・・
というか1話目であの時は・・っていうのからするとやっぱりこうなるか・・
ちゃんと大団円になることを期待してるね