仮想劇場『曇天に咲いた陽』
- カテゴリ:自作小説
- 2021/07/02 11:17:31
山間の景色に分厚く積もる灰雲を睨み、恨めしそうな唇でガムを噛んだ。
そして心の中の嘘を剥いでくるみ、味のしなくなったガムと共に吐き出した。
梅雨の空に掛けられたフィルターの中に小さな光の点を見つける。
それがキミであることを僕は知っている。
往々にして現実は僕たちをすれ違いにしたがるが、それでも祈りだけは絶やさぬようにと東の空に向かって両手を重ねた。
バス停は僕にとって静寂であり喧噪でもある。
耳煩いの僕の心の中にいくつもの足跡を刻み続ける。
一昔前の僕ならその一つ一つの匂いを嗅ぎとり、点を線に変え、その線を今度は面に変えてキャンバスに塗りこめてきた。
それが僕の処世術でありここでの生き方だった。
今はそのキャンバスも塗り込めるための絵の具も手元にはない。
つまりは深く、深く孤独だ。
灰雲の中の小さな光に自分のこの姿をも重ねて一時の慰めにし、今はただ夏の到来を待つばかり。
せめて内なるものだけは健やかにあれ、そう強く願いながら。
いつもすみません、ありがとうございます( ´w`)ww