Nicotto Town



仮想劇場『本棚の上手な使い方』


あれは一昨日の夜の事だったか
上等な雨と春濡れの匂い
星座は分厚い雲の向こうで
顔色を失って泣いていた

俺は書物に埋もれる毎日に飽きて
少しだけ身を伸ばして窓の向こうを見ていた
大人しく生きることにしている
手痛い牙は胸の奥にしまったままで

本音だけで他人と対峙できればそれは幸せだろうか
嘘や謙遜をひとつも持ち込まずに絆を確かめられたなら
人々はそれを幸福だと断言するだろうか
闇蛍が漂う外の世界に尋ねるが決まって答えはない

背の高い本棚の裏に身を隠し自分の本性を曝け出すとき
俺たちは倫理を吐き捨てて獣に身をゆだねる
今の瞬間を確認するのに知恵も知識も道理も要らない
仮想を突き抜けたリアリティがそこで激しく燃え上がるのみだ


そうあの夜

俺たちを支えたのはたった一本の柱だった

その頑丈な柱に身を委ねることで俺たちは確かにひとつになれたのだ













Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.