Nicotto Town



『線路は続くよ』

# 春来たりなば


発車のベルが鳴り、車内販売員がホームに呼びかける

「まもなく発車します。お乗りの方は、お急ぎくださいな」

「は~い、のりま~す」

一組の少年と少女が、慌てて駆け込む

二人が席に着くと、汽車が動き出す


「やっと、街から出られるね」

少女が言う

「そうだね」

窓から外を眺めながら、少年が言う

窓の外は、春を告げる花が咲き始めたばかりの町

少年は、じっと窓の外を見つめ続ける


「どうしたの?」

先ほど買ったチョコレートの包みをほどきながら、少女が言う

「冬を、思い出していたんだ」

少年が答える

瞳が光っているのは、涙だろうか

「忘れてしまえば良いのに」

「無理だよ。君だって覚えているだろう?あの時・・・」

「良いの、そんなこと思い出さなくても」

少年の言葉を遮るように少女が言う

「・・・!」

なおも言いつのろうとする少年の唇に、チョコレート押し込む少女

「良いんだよ、そんなことはもう。ただ、つないだ手が温かかった事だけ覚えていれば、それで良いの」

「良いのかな、それで」

「良いんだよ。きっとね」

少年の掌に、指を絡めながら、少女が言う

「だから、笑って」


車窓から見える景色は、街を抜け、青空に変わっていた

何処までも続く、青空


汽車は走り続ける

次は、どんな景色に出会えるのだろう


つづく

(#^.^#)













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