『線路は続くよ』
- カテゴリ:30代以上
- 2021/03/24 20:21:32
# 春来たりなば
発車のベルが鳴り、車内販売員がホームに呼びかける
「まもなく発車します。お乗りの方は、お急ぎくださいな」
「は~い、のりま~す」
一組の少年と少女が、慌てて駆け込む
二人が席に着くと、汽車が動き出す
「やっと、街から出られるね」
少女が言う
「そうだね」
窓から外を眺めながら、少年が言う
窓の外は、春を告げる花が咲き始めたばかりの町
少年は、じっと窓の外を見つめ続ける
「どうしたの?」
先ほど買ったチョコレートの包みをほどきながら、少女が言う
「冬を、思い出していたんだ」
少年が答える
瞳が光っているのは、涙だろうか
「忘れてしまえば良いのに」
「無理だよ。君だって覚えているだろう?あの時・・・」
「良いの、そんなこと思い出さなくても」
少年の言葉を遮るように少女が言う
「・・・!」
なおも言いつのろうとする少年の唇に、チョコレート押し込む少女
「良いんだよ、そんなことはもう。ただ、つないだ手が温かかった事だけ覚えていれば、それで良いの」
「良いのかな、それで」
「良いんだよ。きっとね」
少年の掌に、指を絡めながら、少女が言う
「だから、笑って」
車窓から見える景色は、街を抜け、青空に変わっていた
何処までも続く、青空
汽車は走り続ける
次は、どんな景色に出会えるのだろう
つづく
(#^.^#)