Nicotto Town



スケリグ

29冊目の洋書。イギリスの児童書。

”Skellig” by David Almond(デイヴィッド・アーモンド)

冬の終わりに10歳の少年マイケルは、その家に家族と引っ越してきました。
生まれたばかりの妹は、生死の境をさまよい、まだ名前もつけられていません。
赤ちゃんを迎えて新しい生活が始まるはずの家は、あちこち修理が必要な状態で、庭も荒れほうだいでした。
マイケルを気遣ってはいるけれど、お母さんは赤ちゃんにかかりっきり、お父さんもいっぱいいっぱい。
そして、マイケルは、倒壊寸前のようなガレージの中で不思議な男を見つけます。
彼は、虫の屍骸と蜘蛛の巣と埃にまみれ、ほとんど動くこともできずに闇の中にうずくまっていました。
マイケルは隣の家の女の子ミナといっしょに、彼(スケリグ)を助けようとします。
ブレイクの詩を暗唱するミナは、家族の信念によって学校へ通っていませんが、
マイケルよりもいろいろなことを知っています。

自分は10歳のころ、死をどんなふうに捉えていたのだろうかとか思いながら、
のめりこむように読んでいたら、悲しいと思ったわけではないのに、涙がでていました。

ウィリアム・ブレイクの詩や思想が物語の根底になっていて、随所でブレイクの詩が引用されます。
また、汚濁にまみれた聖なるもののイメージは、とても強烈です。
冬の終わりと春の訪れに重ねられた現実と幻想が交差する生と死と祈りの物語は、
ちりばめられた死と不安のイメージから始まり、恐れや不安は希望へ、死は生へと転化し、
生命と春の喜びで幕を閉じました。

しっかりした女の子が、精神的に不安定な男の子の手を引っ張っていくという構図に、
キャサリン・パターソンの「テラビシアかける橋」を思い出しました。
固定観念にとらわれずに世界を見ることを知った主人公の少年が、
恐れや不安の中から抜け出して願いを現実のものへと変えていく力を得るというところも同じですね。

”Skellig”の名前は地名から。
Skellig Michael(スケッリグ・マイケル)は、初期キリスト教の遺跡が残るアイルランド沖の無人島です。
世界遺産になっています。アイルランド語で「ミカエルの岩」という意味なのだそう。

ウィリアム・ブレイクは、18世紀後半から19世紀にかけて活躍したイギリスの偉大な詩人で画家で、
後世に大きな影響を与えています。

読み終えるのに2週間かかっています。総語数は約31000語。読んだ洋書の最長更新♪
10歳の少年が語っている物語なので、それほど難しい文章は出てきません。
電子辞書は、引きまくってます。
読み終わったペーパーバックは、やっぱりボロっとなっていました。


日本版は東京創元社から。「肩胛骨は翼のなごり」山田順子訳

日本版は読んでいません。
邦題と表紙は、なんだか勘違いしているような感じです。
こうした方が売れるからなのでしょうが、出版形態は間違っていると思います。
子供たちに向けて書いた作者の意図にも反しています。
小学校高学年くらいからの読み物として、子供向けに翻訳して出版して欲しかったです。
原書を読み終わってから、本屋で少しページをめくってみましたが・・・。
原書を読まずに邦訳だけを読んだのなら「肩胛骨は翼のなごり」を絶賛していたかもしれません。
読んで泣いたりはしないだろうし、たぶん、感想も少し違ったものになっていたでしょうけれど。


2003年に原作者自身の手による戯曲が、ロンドンで上演されています。
日本でも2005年に日本人キャストで上演されていました。
「スケリグ SKELLIG 肩胛骨は翼のなごり」主演:森山開次

映画化もされました。
【Skellig】2009イギリス → http://www.youtube.com/watch?v=xDxqNxXgI1s
trailerの印象はあまりよくないのですが、ティム・ロスはスケリグのイメージにぴったりだと思います。




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