『線路は続くよ』
- カテゴリ:30代以上
- 2020/01/29 19:54:09
# 冬来たりなば
「どうしても?」
「うん。この街は寒すぎるよ。僕には、暮らせない」
「でも、もう少ししたら春になるわ」
「気付いたんだ。春が暖かいとは限らないよ」
「そう・・・なんだ・・・あっ」
汽車が駅に着き、ドアが開く
冷たい空気が、車内に流れ込む
雨のホームには、人影もまばら
せめて雪ならば、少しは景色もちがうのだろうか
「あの、すみません」
慌ただしい足音とともに、ひとりの少女が車内に駆け込んでくる」
「はい。この汽車にお乗りですか?」
車内販売員が応対する
「いえ、そうではなくて・・・。ほっかほかのあんまんと、ぽっかぽかになる甘酒は売ってないでしょうか」
「はい、ございますよ」
「良かった。それを二つずつ下さい」
嬉しそうに少女が言う
二つの袋を抱えて、少女は小走りで、ホームの隅のベンチへ向かう
ベンチには、旅支度の少年がひとり、座っている
少女は見送りだろうか
少女が袋の一つを手渡し、少年の横に寄りそう
「わたしもね、気付いたよ。冬だって、寒いばかりとは限らないって」
やがて発車のベルが鳴り、汽車は駅を出る
次はどんな季節が待っているのだろう
つづく