私的総括 ジンジャーベイカー編
- カテゴリ:音楽
- 2019/11/04 16:37:05
好きなアーティストが逝去すると、数週間は懐古してしまいます。
吾妻ひでおについて書きたいことも多々あるが、批判的になりそうなので自重。
10月初めに逝去したドラマー、ジンジャーベイカーについて私的総括。
技術的な側面から語る場合、二十一世紀の五歳児でも叩けるレベルでしょう。
ウェックルやデニチェン以降の超絶ジャズ屋と比較するのもアホらしい。
ロック界でも日本・海外問わず、技術的にウマイ奴は真砂の数ほどいるわけです。
何が凄いか。まずですね、動画でセッティングをご覧くださいな。
タム類やシンバルをほぼ水平にセット、バスドラムは口径の違う物を二発。
音色と倍音に深い意味のあるセッティングなんですよ。
水平セッティング、やってみると分かりますが、倍音が『直上』に抜ける。
叩きにくいしスティックコントロールも難しいけど、鳴りが独特なんです。
ドラムが木と皮と金属で構成されてることがよく分かる音色なんです。
ツインバス、元は音圧と迫力を稼ぐために古のジャズ屋が始めましたが、
彼らは同じ口径の大きめのバスドラを鳴らすのが常でした。
ですがベイカーはほぼ一貫して、異なる口径のバスドラを鳴らしてます。
アピスやパウエル、またはメタル屋みたいなバスドラ連打とは志が違います。
音色が異なるから、タム回しと同様にグルーブとドライブ感が生まれる。
つまり、ベイカーはリズムだけでなく『音程』を表現するドラマーでもある。
半世紀以上前のスーパーグループ、クリームのヒット曲は山ほどありますが、
あの独特のグルーブはベイカーの音楽的ドラムに拠るのです。
『White Room』『Sunshine of Your Love』を聴きなおしてみてね。
倍音を含む『音程』を演奏するドラマーとしてベイカーは傑出しています。
彼の演奏をドラム用の譜面に起こしてもあまり意味はありません。
むしろ五線譜に書き表すべき演奏ではないかと愚考するのです。
次に『音楽的』技術。これを端的に物語るのは1968年のクリーム解散時の映像。
「ジンジャーベイカー先生のフラムトリッパー講座」が数分流れます。
ベイカーを未見の方は、まずこれを見ましょう。
ドラムの基本技術の一つであるフラム。なぜこの技法が生み出されたのか。
スネアをオープンに鳴らしきるベイカーのフラムは簡単に見えますが、
タイコ屋さんはぜひ真似してみましょう。ゼッタイこの音色は出ない。
フラムは装飾音、またはゴーストノートと呼ばれる類の音です。
近年のジャズ屋が好む超絶4ビートでは『技術的な惰性』に堕していますが、
ベイカーのフラムは、これまた『音符』なんですよ。
手足が速く動く、4Wayでポリリズム叩くドラマーも近年は多いけど、
ベイカーは一つのリズムと『メロディー』を演るだけ。そこが音楽家たる所以。
エルヴィンジョーンズやアートブレイキーあたりが近いのではなかろうか。
『音楽的』ドラマー、ジンジャーベイカーの名盤を5枚挙げましょう。
ネアンデルタール人と骸骨騎士の遺伝子を混合した風情のベイカーの容貌も
共に味わいたい方は、豊富な動画を検索なされませ。
1.『Farewell Concert 1968』 Cream
還暦ロック爺の聖典です。捨て鉢な三人の若者の傍若無人な演奏が炸裂。
ベイカーのドラムソロ曲『Toad』の邦題は『いやな奴』です。
骸骨猿人の如き(ヒドイ!)彼の顔写真を見るたびに納得します。
2.『Ginger Baker's Air Force』(1970)
BS&Tやシカゴと並べても楽しめるアフロ・ブラス・ロック。
黒人音楽が一般化した現代、『アフロ』の側面は希薄であり、
ニューオーリンズやスウィングジャズ的な要素の強さが好ましい。
3.『Live』Fela kuti & The Africa70 with Ginger Baker(1971)
エスニックやワールドミュージックの遥か前、このサウンドです。
半世紀経っても最先端のグルーブを生み出すのにベイカーが寄与してます。
同時期だと、ドイツのヤキ・リーベツェイトは同じ方向を見てますね。
4.『Album』 Public Image Ltd (1985)
ベイカーの叩く『Ease』一曲を味わったあと『Home』を聴くと面白い。
『Home』のタイコはトニーウイリアムス、全く感心できない仕事ドラム。
トニーがジャズ屋、ベイカーがロックドラマーなのがはっきり分かります。
5.『Going Back Home』 Ginger Baker Trio(1994)
ビル・フリーゼルとヘイデンというメンツで、いかにも90年代的な音空間。
本格的なジャズと評価する向きもあるが、それには異論あり。
『今っぽいJazzも俺はできんだぜ?』というベイカーの強がりが魅力なの。