Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


【青金石】(続き)

 何でみんな私を連れ出そうとするとき、アレクに「借りる」っていうんだ?私はアレクの所有物じゃないのに。
 先に立って歩く魔法使いにその事を指摘すると、立ち止まって振り返り、感じのいい笑顔で(被り物は広間を出るとすぐに取って、脇に抱えていた)こう答えた。「では、逆だったらどうお思いになります?」
 逆?
「なるほど。所有‐被所有、という関係の問題ではないんですね」
「変わった言い回しの選択をされるんですね。一体どんなお育ちなんですか?」
「とても人数が少ないところ、とだけ言っておきますわ」
「興味深いお話ですね。…その土地では、あなたのような力の強い魔法使いが沢山とれるんですか?」
「力が強い、とか、沢山、の基準が判りませんが…力あるものを呼ぶ事が出来なくては、生き延びる事が難しい土地ではありますわね」
 《ラピスラズリ》が階段の登り口の横に椅子が置かれているのを見つけて、座るように示す。本人は立ったままだが。
「ただの世間話でそういう事を言い出したのでしょうか?」
「いえ…」
 言いにくそうに口籠る。
「単刀直入にお聞きします。あなた、あの子たちに何かしませんでしたか?」
「あの子たち、というのは、あなたの大切な伴侶だった方のお孫さんである、双子の赤ちゃんたちの事でしょうか?」
「…もしかしたらジリアン大公のお名前をお忘れで?」
「…それが、何かお話に関係するんでしょうか?」
「いいえ。…そうですね、関係ない事でした」
 言いながら唇の端が笑いの形になっている。
「では、あの子たちの母親…シェリルには?」
「彼女には…むくみを取るマッサージと、少々血のめぐりがよくなる魔法を。…あと、魔法の効果がいくらか長引くよう、ほんの少しばかり、「力」を分けて差し上げましたが…何か問題でも?」
「その、「力」を分ける、という行為は、あなたの育った所では、一般的に行われているものなのでしょうか?」
「一般的、とは言えませんが、…例えば、相手がひどく弱っている時には。病気とか、けがで」
「シェリルは、そんな状態だった?」
「あの時は…お子様たちの方が。双子だと、どちらか弱い方により負担がかかるので」
 正直、大公家の人たちには、ちょっと言えない思惑もなかったとはいえないけど。「…それが…何か問題に?」
「双子の発育具合があまり良くなくて。特に、片方は、二回ほど死にかけた事も…」
「それは…それで、き……母親の方は?」
「「金瞳」の事は気になりますよね」《ラピスラズリ》が察したように微笑む。「…それも少し奇妙で。現れたり消えたりするんです」
「現れたり、消えたり?」
「それで、現れると遅くとも二・三日以内に具合が悪くなるので…その事に気付いた母親が取り乱してしまって」
「…ギレンス伯は…?」
「あの方も、態度を決めかねているようですね。…何より、「金瞳」が安定しないので」
「…もし、その子達の「金瞳」がなければ…無事に育つとしたら、どうされるでしょうか、伯は」
「私は彼ではないので。…あなたには、何か目算があるのですか?」
 この人には、言っておかなければなるまい。何のために彼女を探させたか、について。
「「龍」の契約解除を行おうか、と思っています。もし、王国に「龍」が必要だ、というなら、そのうえで改めて、誰かが代表して再契約を」
 《ラピスラズリ》が目をしばたたいた。「そのような事が…できるのですか?」
「理屈の上では。いくつかクリアしなければならない課題がありますが」
 まず、「龍」の意識と接触できる事。
 そして、失われた「龍」の体の代替となる「体」を用意する事。
「…なるほど。それで私が呼ばれた訳ですか」
「…大変、申し訳なく思っております。実は」
「探させる時から、そのつもりだった?」
「…はい」
 今のうちなら、まだ、父とジリアン大公家の双子は、間に合う。
「彼女が亡くなるまで待ってた?」
 笑った表情が張り付いた、奇妙な動物の頭部を弄びながらそう問う。
「いいえ、それは。…訃報を聞いて「体が手に入る」と考えたことは、否めませんが。正直、どうしたらいいのか途方に暮れていたので」
「もし、私が協力しない、と言ったら?」
「…その時は、自分で用意するしか。間に合うかどうか判りませんが」
 動物の頭部が床に落ち、乾いた音をたてる。
「…ご自分で?って」
「協力は取り付けてありますので」
「…ええと…そのつもりで?」
「まさか。いま思いついた事ですから」
「王族の女性方、というのは」落とした被り物を拾いながら、あきれたような声音で言う。「皆そのような考え方をされるのですか?…その、ご自分の体は「金瞳」を作る道具だ、みたいな」
「私は、自分自身を王族だと考えたことは、一度もありませんが。…そう扱われがちではありますね」
 ジリアン大公の魔法使いが、拾い上げた動物の頭部を脇に抱え直して、溜め息をつく。
「解りました。あなたにそのような事はさせられませんからね」

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