Nicotto Town



『線路は続くよ』

# glory days


小さな街の、小さな駅の待合室

おばあさんがひとり、ベンチに座っている

電車を待っているのだろうか

暑かった夏の日の終わりの、すすしい風にゆられて居眠りをしている


「ヨーコ?ヨーコじゃない」

不意に呼びかけられて、おばあさんが目を覚ます

目の前の女の子が、顔をのぞき込んでいる

その顔には、見覚えがあった

「ナッちゃん・・・のお孫さん?」


「何言ってるの。ナツコ本人だよ~」

(そんなはずは・・・)

幼なじみのナツコ

同い年のはずだ

なのに目の前にいる少女は、あの日別れたままの姿だった


だけど

世の中には、時として、不思議なことが起こるものだ

だから、きっとそうなのだろう


「ナッちゃんもこの街に住んでたの?」

「ちがうよ~。この街にはお花を探しに来たんだよ」

「花?」

「うん。夕日草って言ってね、夕焼けのほんの一瞬だけ、真っ白に輝くお花があるらしいの

「夕日が綺麗なこの街なら、咲いてると思ってきたんだけどね

「ヨーコはみたことない?」

記憶をたどってみたけれど、そんな花は知らなかった

「そっか~。まあ、よくある事よね」


「ナッちゃんはまだ、不思議探しを続けているんだね」

不思議を探して、あっちの野山、こっちの小川、向こうの田んぼと街中を駆け回った日々

懐かしい思い出が、胸によみがえる

「うん。世界は不思議であふれているからね」

あの頃と同じセリフ

ふと真顔になって、ナツコが言う

「ねえ、ヨーコも一緒に行かない?昔みたいにさ、二人で手をつないで」

それはきっと、とても素敵で、楽しいことだろう・・・でも


「ごめんね。今はまだいけないよ。今日はね、孫が遊びに来るんだ」

それを聞いて、満面の笑顔で頷くナツコ

「うんうん。孫は可愛いものね~」


ホームに、発車のベルが鳴り響く

いつの間にか、電車が来ていたようだ

「あ、もう行かなくちゃ。ね、今度は孫の話も聞かせてね」

「うん」

「それじゃ、またね~」

あの頃と同じ別れの言葉を残し

やっぱりあの頃と同じように大きく手を振り

ナツコは、夕日のホームへと消えていく



汽車は走り続ける

暮れなずむ街の中

長い影をつれて手をつなぐ、二人の姿が見えた気がした


つづく

(#^.^#)







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