『線路は続くよ』
- カテゴリ:30代以上
- 2019/06/21 04:01:01
# glory days
小さな街の、小さな駅の待合室
おばあさんがひとり、ベンチに座っている
電車を待っているのだろうか
暑かった夏の日の終わりの、すすしい風にゆられて居眠りをしている
「ヨーコ?ヨーコじゃない」
不意に呼びかけられて、おばあさんが目を覚ます
目の前の女の子が、顔をのぞき込んでいる
その顔には、見覚えがあった
「ナッちゃん・・・のお孫さん?」
「何言ってるの。ナツコ本人だよ~」
(そんなはずは・・・)
幼なじみのナツコ
同い年のはずだ
なのに目の前にいる少女は、あの日別れたままの姿だった
だけど
世の中には、時として、不思議なことが起こるものだ
だから、きっとそうなのだろう
「ナッちゃんもこの街に住んでたの?」
「ちがうよ~。この街にはお花を探しに来たんだよ」
「花?」
「うん。夕日草って言ってね、夕焼けのほんの一瞬だけ、真っ白に輝くお花があるらしいの
「夕日が綺麗なこの街なら、咲いてると思ってきたんだけどね
「ヨーコはみたことない?」
記憶をたどってみたけれど、そんな花は知らなかった
「そっか~。まあ、よくある事よね」
「ナッちゃんはまだ、不思議探しを続けているんだね」
不思議を探して、あっちの野山、こっちの小川、向こうの田んぼと街中を駆け回った日々
懐かしい思い出が、胸によみがえる
「うん。世界は不思議であふれているからね」
あの頃と同じセリフ
ふと真顔になって、ナツコが言う
「ねえ、ヨーコも一緒に行かない?昔みたいにさ、二人で手をつないで」
それはきっと、とても素敵で、楽しいことだろう・・・でも
「ごめんね。今はまだいけないよ。今日はね、孫が遊びに来るんだ」
それを聞いて、満面の笑顔で頷くナツコ
「うんうん。孫は可愛いものね~」
ホームに、発車のベルが鳴り響く
いつの間にか、電車が来ていたようだ
「あ、もう行かなくちゃ。ね、今度は孫の話も聞かせてね」
「うん」
「それじゃ、またね~」
あの頃と同じ別れの言葉を残し
やっぱりあの頃と同じように大きく手を振り
ナツコは、夕日のホームへと消えていく
汽車は走り続ける
暮れなずむ街の中
長い影をつれて手をつなぐ、二人の姿が見えた気がした
つづく
(#^.^#)