Nicotto Town


おうむたんの毒舌日記とぼうぼうのぼやき


ほっかいどいんこ 昼メロいんこ「愛の嵐」3

7 嫉妬

愛しい我が娘は 順調に育ち 彼女は その成長ぶりに目を
細めて 喜んだ。
しかし・・・。綿毛が消え とげとげした新毛が開き 娘も 見てくれ
だけは いっぱしのいんこになったころから 彼女の中に もやも
やした感情が 湧き上がってくるのを 拭い去れなくなっていた。
日増しに 娘は 美しい成鳥になっていく、私から餌を 次々 奪
いとりながら・・・。命を削って育ててる私を こいつは 土足で
踏みにじって 育っていく・・・。
えさをくれと 無心する我が娘をどす黒い感情で 眺める自分に
はたと気づき 彼女は自己嫌悪で うなだれた。

自分の気持ちを押し殺し 彼女は精一杯 母親を努めを果たそう
と努力した。ようやく 掴んだ幸せなのだから。
しかし 臨海点は やってきた。
巣箱から ちょろちょろ 外へ出て 遊べるようになった娘に
母は 一人で食べる訓練をするように 言い聞かせた。
「一人で餌を食べる練習を 始めなくちゃ、ね。」
「はい、お母さん」
素直に指示に従っているものだと 信じていたーあの光景を
見てしまうまではー。

娘は 巣箱の外で遊んでいる、私も 少し 羽でものばそう、と
彼女は 巣箱から出て ノビをした。
そういえば 夫は どうしているのだろう?もう、やぁね、こんなに
私を放っておくなんて、彼女はちょっと すねて 夫のよく出かけ
る場所へ 歩いていった。
あ やっぱり ここにいたのね、夫の姿を認め 駆け寄ろうとした
その瞬間 夫のかげから ちらりと娘の姿が覗いて 戦慄で身が
凍りつく。
夫と娘が・・・ちゅうをしているではないか!
最初に気づいたのは 娘の方だった。夫の肩越しに 立ちすくむ
彼女に視線を投げかけ ちゅうしたまんま ニヤリと笑ったのだ。
それは・・・愛しい娘の視線ではない 彼女の知らぬ女が そこに
いた。

8 巣立ち

背後にただならぬ気配を感じ 夫が振り返った時には 彼女は 
すでに夫のしっぽに 齧りついていた。
ぎょえ~~っ!悲鳴を上げ もがきながら 夫は必死に叫んだ。
「えさを ねだられちゃったもんだから・・・。君が あんまり えさ
をくれないって 泣きつかれて つい・・・ごめんよ。」
彼女は 夫の言葉をきいちゃいなかった。夫のしっぽを更に力一
杯ひっぱる彼女の背中には 怒りのオーラがゆらぎ 夫は恐怖で
もはや 声も出ない有様であった。

と。突然 彼女は己の背後に衝撃を感じ 悲鳴をあげ 思わず夫
のしっぽを嘴から 離した。
振り向いて驚愕する。なんと 娘が あろうことか しっぽに齧り
ついているではないか!
母親にたてつくなんて!許せないっ!渾身の力で 娘を振り払う
と彼女は 羽をひろげ つい今しがたまで娘と思っていた 女い
んこに 言い放った。
「出ていきなさいっ!もう あなたとは 暮らせません!」
「望むところよっ!」
さすがに 羽をひろげた母親に 今 たてついたところで ボコボ
コにされるのを悟った娘は ギロリと睨むと立ち去った。
娘の 巣立ちの瞬間であった・・・。

「女って恐い・・・。」
とうの昔に 現場から 逃げ出していた夫は 安全な避難場所か
ら 母娘の戦いを見つめ 恐怖で身と目を細くした。

娘を追い出し 重い足取りで 巣箱まで戻ってきた彼女は 巣箱
を見上げてつぶやいた。
「もう ここに 入れないのね。」
巣箱が 悲しげに答えた。
「そう 今回の僕の役目は 終わったよ。」
幸せは つかの間の幻想だったのだろうか?と彼女は 巣箱
を後にしながら 考えた。
いいえ、娘は去ったけれど 私には夫がいる。
私はひとりぼっちなんかじゃない!彼女の瞳が また力強く光
りを放ちはじめた。

9 疑惑

夫との生活が 始まった。彼は 以前のとおり 優しく彼女に
尽くしてくれた。
でも、本当に以前のとおり?毛繕いの時間が 心なしか 短い
のは 気のせい?
ゲロゲロを仕入れに行くといって 出かけると 戻る時間が
遅いのも 気のせい?
時々 これみよがしに 自分の若さを私に見せつけるように
近寄ってくる かっての娘の あの挑発的な態度は 何?
渦巻く疑惑は 枯れるどころか 膨れ上がるばかりで 彼女
は また イライラを募らせ、夫にやつ当たりを繰り返すように
なっていった。

それでも 夫の自分に対する愛情は 絶対だと 彼女は信じて
疑わなかった。
夫の視線が 後ろめたく 彼女から反れるのにも 気づかず
に。

10 輪廻

ある日、いつまでも戻ってこない夫を探し えさ場に来た彼女は
そこで 遂に 夫と元娘が逢引している現場を目撃してしまった。
もはや 挿し餌をしているなどという 言い訳を納得するなぞ とう
てい無理だ。やはり 夫と元娘は 私を裏切っていたのだっ!
うろたえる夫を押しのけ 元娘は ぐいっと彼女の前に進みでて
何ものをも 恐れぬ自信に満ちた声で 言い放った。
「あなたが何か言える資格でも あるの?ちっとも 彼なんか愛して
なんかいないくせにっ!利用するだけ利用して 彼が可哀想よっ!
あなたは あなたの大事なあの人とやらのところへ 戻ればいい
じゃない。私達の邪魔をしないでよっ!!」 
彼女は 怒りに震えながら絶叫した。
父と娘は 結婚なんてできないのよっ!

その瞬間 彼女に雷に撃たれたような衝撃が 走った。
デジャブ・・・・。まざまざと蘇る記憶。
かみしめた唇から 絞り出された あの言葉
「飼い主と いんこは 結婚できないんだ。」
目の前で 必死に叫んでいる あの娘は、何も知らず愛だけを
信じていた かっての私?
彼女はつぶやいた。
「輪廻・・・歴史は繰り返すのだ」

11 再び運命は動き出す

彼女は 立ち尽くし 去って行く夫と娘の背中を じっと見つめて
いた。
どれほどの時がたったのだろう?
彼女は 顔をあげ 正面をキッと見据えた。
見えぬ運命の扉を開き 嵐の中に彼女は 再び 自ら飛び込んだ
のだ。
「私は 夫を愛してる。どんなことがあっても 私は 彼を取り戻す」
キラキラと瞳を輝かせ 彼女はえさ場へと歩き出した。
「まずは 腹ごしらえよ、全てはそれから 始まるのよ」




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