Nicotto Town


おうむたんの毒舌日記とぼうぼうのぼやき


ほっかいどいんこ 昼メロいんこ「愛の嵐」2

4 焦燥感

彼女は 落ち着かなげにイライラとうろついていた。
彼女の本心を夫がどう思ってるのか 彼女には さっぱりわから
なかった。
あいつに対するあてつけの結婚であることを 夫が知らぬわけ
がなかった。彼女は 自分の気持ちを隠そうともしなかった。
あいつの前では 思いっきり いちゃつき 見えぬところでは
夫を蹴っ飛ばしていた。
なのに・・・。夫は 彼女に優しかった。彼女の毛繕いをしたり
えさをゲロゲロして食べさせてくれたり。
毛繕いは気持ち良かったし ゲロゲロは 最高に美味しくて
時には 彼女は夫との結婚生活に 幸せすら錯覚しそうに
なっては 頭を振って現実に自分を引き戻すのだ。

しかし。あいつは 嫉妬しているのだろうか?私達 夫婦を
見るあいつの瞳に 嫉妬の炎を見つけることが出来なくて
彼女は 更にイライラが募った。
ゲロゲロが美味しすぎて なんだか 最近 からだが重くて
だるい。私の魅力がなくなったから あいつの愛は冷めて
しまったというのだろうか?

また いそいそとゲロゲロを夫が運んできたので 彼女は
腹がたって 夫を蹴っ飛ばした。
「私をぶくぶく太らせて 私を醜くさせたいわけっ?」
「何をいってるの、美味しいものを君に食べてもらいたい
から、それだけだよ。お腹いっぱいで いらないの?」
「たっ 食べるわよっ」
意志薄弱な自分に 腹をたてながらも ゲロゲロは やっ
ぱり美味しくて そして 夫の気持ちも あいつの気持ちも
さっぱり読めず 彼女は また イライラを募らせた。

5 真相

彼女のイライラが募るばかりのある日。
ニコニコしながら あいつ、つまり 飼い主が彼女に近づい
てきた。
「君に プレゼントしたいものが あるんだ。」
プレゼント!それって もしかして もしかして 愛の証のゲロ
ゲロ?ああ やっと 私の気持ちがわかったのね、彼女は
嬉しくて涙がこぼれそうであった。
「君のイライラの原因が ようやく わかったよ。気づかなくて
ほんと ごめん。」
ああ いいのよっ、わかってくれたんですもの、彼女は叫んだ。
早く ゲロゲロを私にちょうだい、気がせいて身をのりだした
彼女の前に 得体の知れぬ物体が突き付けられ 彼女は悲鳴
をあげて 壁にへばりつき 視線をそらした。
「な!なんなのよっ!そんな恐ろしいもの どっかやってよっ!」
彼女の心臓は 破裂しそうなほどドキドキしていた。
「ごめん びっくりさせちゃったね。でも 落ち着いたら ゆっくり
こっちを見てごらん。きっと君は気に入るよ。だって これは
君達夫婦のスィートホーム、巣箱なんだから。」
「スィートホーム?そ、そんなもの 私はいらないわっ、私が欲し
いのは あなたの愛だけなのよっ!」
一向に 物体の気配がなくなる様子がないので彼女は 視線を
あらぬ方向に向けたまま 裏切り者に向かって 叫んだ・・・つも
りだったが 飼い主は すでに 口笛なんぞふきながら 去って
いた。

いつまでも 壁にへばりついて 視線を不自然な方向にそらして
いるわけにもいかなくなって みじめな気持ちで 彼女は そろり
と その巣箱とやらに目を向けた。
と。巣箱が 彼女の頭の中に 語りかけてきた。
「こちらへおいでよ。この中で 君は幸せと平穏を見出せるよ。」
それは 彼女が今だかって 経験したことのないほど慈愛に満ち
ていた。恐怖心が しだいに薄れ 彼女は フラフラと巣箱に
引き寄せられるように近づいた。
「ここに 私の幸せなんて あるの?」
優しく包み込まれるような感覚は 不思議に彼女の心を癒し 泣き
出したい気持ちで 彼女は巣箱によじ登って行った。
「ここから 中に入ってごらんよ。君は 素直な気持ちになれるよ。
そして 君は 何が大切か きっと気づくから。」
彼女は目の前の巣穴から 暗い巣箱の中に そろそろと潜り込ん
で行った・・・・。

6 平穏

夫が 忙しげに 巣穴の向こうから声をかけてきた。
「餌足りてるかい?」
妻は まとわりつく 小さな綿毛の生き物を 腹の下に押し込みな
がら たのもしげに 夫に向かって言った。
「菜っ葉ものと カルシウムをちょっとブレンドしたのを お願いね。」
「了解」
妻のリクエストに答えるべく いそいそと夫は 立ち去った。
彼女は 幸せそうに 腹の下のもぞもぞを くちばしで なでなでした。

巣箱は うそをつかなかった。
彼女は 巣箱に入って 幸せを、優しい夫とかわいい雛を手に入れ
たのだ。
かいがいしい夫が 自分が巣箱に引きこもるようになって どれほど
自分の支えになってくれたかを考えると 素直に感謝の気持ちが
わいてくる。
つまりーと彼女は振りかえる。あの いてもたってもいられぬイライラ
は 産卵が近い兆候だったわけだ。
そして あの人は そんな私の状態を 見守っていてくれたわけなの
だ。そして この素晴らしい巣箱を 幸せを 私にプレゼントしてくれ
たのだ。
あの人は・・・私を見捨ててはいなかった、愛は消えていなかった。
つらつらとそこまで考えていた時、夫が戻ってきた。
「おーい、餌持ってきたよ。」
「今いくわね。」
こんな優しい夫が 尽くしてくれているのに あの人のことを思い浮
かべていた自分が 恥ずかしかった。
愛だって いろいろあるのだ。夫に激しい愛を感じなくても 家族とし
ての愛情は 確かに 存在しているのだ。
私は ようやく 幸せになれたのね、彼女は つぶやいて微笑んだ。




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