ほっかいどいんこ 大丈夫、だいじょうび
- カテゴリ：その他
- 2019/03/02 21:50:19
「大丈夫 だいじょーび」
日が暮れて あたりは闇に包まれて 籠の中のいんこは
うとうとし始めた。
ちょっくら一眠り…、毎日繰り返す日常だ。
今日 部屋が明るくなるのは いつぐらいかな？
最近 その時間が遅くなってるような感じがするのは気のせい
なのかな？
大好きな飼い主が 遊んでくれる時間も なんだか短いし。
ちょっとムカッとする事態だな、といんこは思った。
でも 今日は きっと いっぱい遊んでくれるかもしれない
し。寂しくなりそうな気持ちを振り払って いんこは丸く
なって目を閉じた。
寂しかったといえば。トロトロまどろんでいると いろんな
ことをぼんやり思い出すものだ。
この家に来る前 たくさんの仲間達とぎゅうぎゅう おしく
らまんじゅうしながら暮らしていたことが あったっけ。
それが 仲間がだんだん少なくなって おしくらまんじゅう
で暖かかったのが 出来なくなってちょっと寒くてさ…。
ブルルン。思い出していんこは からだを一度大きく震わせ
た。ちょっと羽毛を膨らませるとからだは すぐにポカポカ
してきて いんこはまた まどろみ始めた。
おしくらまんじゅうの仲間がいなくなって 寂しくて落ち込
んでいた時 飼い主と出会ったのだったけな。
今では大好きだけどさ、慣れ親しんだあの場所から ここに
連れてこられた時は 飼い主の顔は怪獣みたいに見えたよなぁ。
ブルブル震えちゃってさ、じろりと恨みがましく睨んでやった
ら 怪獣…じゃなくて飼い主が
「大丈夫だよ」
って言ったんだ。なんだか とっても安心して 飼い主が怪獣
でなくなったんだよ。
大丈夫…そうそう あの時も 飼い主はそう言った。
餌が食べられなくなって からだに力が入らなくって 籠の
隅っこで震えながらうずくまっていた時。
飼い主が「あっ！」って叫んで それからしばらくしたら
籠の中がポカポカと暖かくなってきて。
「もう大丈夫だよ。」
そしたら からだが随分 楽になってきたっけな。
突然大きな音がして びっくりしてパニクった時も ゴミ
箱に落っこちて 出られなくなった時も 餌箱ひっくり返
して食べる餌がなくなりかけて 腹ぺこになった時も。
困っていると飼い主がやってきて「大丈夫だよ」と言うと
たちどころに問題が解決したっけな。
飼い主の帰りを待ちながら いんこは うつらうつら 夢
の中をうろついていた。
部屋の灯りが点けたのは 随分夜の遅い時間だった。
上着も脱がず へたへたと座り込んだまま 動けなかった。
疲れて…疲れすぎて…。
また明日がんばる力を どこから引っ張り出せばいいの
だろう？
その時 背後から
「だいじょーび だいじょーび」
驚いて振り返ると 遊んでくれるのを待ちわびた いんこ
が 投げやりに
「だいじょーびっ」
を繰り返していた。おしゃべりするとは思わなかった！
それにしても これって 自分の声の真似…なのかな？
そう思うそばから
「だいじょーび だいじょーび」
いやはや 大丈夫の大安売りされてもな、苦笑いしながら
いんこを覗き込むと やっと気がついたのか！と柵に飛び
つき そして
「だい･じょー･びぃ～～～～っ！！（怒）」
と絶叫した語尾は 何故か怒りに変化してしまっている。
「いや ごめんごめん 遊びたかったんだね」
あわてて 鳥かごから出してやると いんこは待ってました
とばかり部屋の中を旋廻し始めた。
調子にのって「だいじょーび だいじょーびぃ」を繰り返す
いんこを眺めているうちに 自分の「大丈夫」といんこの
「だいじょーび」の印象が 随分違うのに気がついた。
明日がんばる力を振り絞ろうとしてたけど。ちょっと肩に
力が入りすぎていたのかもしれない。大丈夫じゃなくて
だいじょーび…そうだね 明日はだいじょーび。
肩の力がすうっと抜けていくのがわかった。
部屋を一回り飛んで満足して いんこは 飼い主の肩に
舞い降りた。飼い主の顔を覗き込むと 優しい目がそこ
にあった。やっぱり 「大丈夫」ってのは すごい効き目
があるのだな、といんこは確信した。そして もう１回
叫んだ。
「だい･じょー･びっ！」
う・うらやましい
なしてうちのインコは飼い主に教育的指導をしたあとで自信たっぷりに
「だいじょーぶ」って言うのか
あと、嫌がるオカメに
「だいじょーぶよー、かわいいねー」
と言いながら乗ろうとするのか………