Nicotto Town


ヤツフサの妄想


悪魔なので邪神を育てる事にした 35話

~ 異世界の謎と女神の存在 ~




ディーアズワールドは久しぶりの平和を謳歌していた。

荒らされた作物は盛大に復活して収穫期を迎え、それまで一日に一度しかも薄いかゆしか食べられなかった難民に収穫期の急がしたから仕事が増え、ただ貰うだけの生活から自分の手で稼いだ金で日々の糧を得る事が出来る。

中には直ぐにでも逃げて来た村や町に戻り、復興に力を入れる物も多かった。

建物は壊され荒らされていていても、畑は生き残っていたからだ。

今の時期を逃せば、自分の畑の実りを無駄にしてしまう事になる。

避難先で配布された毛布をテント代わりに雨露をしのいで収穫しようと思っていたものも多かったが、天候に恵まれ作業は順調に進む。

戦災孤児となった子供たちは、教会が引き取り、寄宿制の宗教学校に入れてくれる。

学び、働き、人の輪を作り、そして日々の糧にありつく。

皆女神に感謝し、復興を進めていくのであった。

「収穫が終わったら、そろそろ女神祭の準備だべな」

「んだ、聖なる勇者様を呼んで下すった女神様に沢山の捧げものをするべ」

「んだんだ、それがいいっべ」

「今年の祭りは派手になるとよ」

「にしても女神様が呼ばれただけあって、あっちゅー間だったっぺ」

「国王や貴族なんざ何をしてくれたってんだよ」

「ああそうだな、薄い粥を1日1杯と、毛布1枚でどう過ごせってんだ」

「うちの親戚の子なんざ、兵士になっちまったばかりに命を落としちまった。 国王は少しばかりの遺族年金を払っただけだとよ」

「ふん、あんな馬鹿王なんざどうでもいいっぺ。 それより女神様の祭りが大事だぁよ」

「んだな」

「んだ、んだ」



人々はあれほど尽力を尽くした国王、貴族、地方自治体の役人、そして勇者として召喚されたバアルよりも、女神をたたえまくっている。

よく聞けば国王や貴族の不甲斐なさを悪く言う物も多い。

まるで週刊誌のスクープ記事をタイトルだけ見て、重箱の隅を突く様に政治への不満を喚き散らす。

その風景をバアルは、深いフードのローブ超しに見ていた。

『何という愚かな・・・ 国王や貴族がどれ程苦労していたのかわからぬと言うのか・・・』

そう、バアルはこの光景を見たことが有る。

それは自分が神で有った時、宗教戦争で悪魔に落とされた後の人々の反応に酷似していた。

歴史は勝った者が作る。

負けた者は言い訳すら『悪行』とされ、徹底的に排除される。

文〇革命の様に、都合の悪いものは排除されて行き、残るべき資料や本も焚書され、インターネットですら検索出来ないようにする、あの忌まわしき行為だ。



その時、バアルの中で何かが「カチリ」とハマった。

まるでパズルのピースが全て合さり、扉の鍵が開く様に。

『この世界には、女神以外の神が居ない! 私は"聖なる勇者"とされているし、邪神様に至っては"ペット"扱いではないか』

そう、ディーアズワールドには女神以外、邪神様も神とは認めているものはいない。

この世界においても人が居て女神が居る、女神は女性であり緒元の神の様に性別が無いものではない。

もし邪神様が以前言っていたように「人間の思い」から神が生まれたまだとすれば、多くの神が存在しなくてはつじつまが合わないのではなかろうか。

だが実際にこの世界は女神1柱のみの存在。

そんな事が可能なのか?

いや、可能である。

他に神が居たとしても封じてしまえばいいのだ。



その方法は以前いた世界で昔から人間がやって来た方法ではないか。

それをディーアズワールドで最も強い神が、このディーアズワールドそのものに呪いの様に掛けたら?

情報操作して、民の耳目をコントロールしたら?

他の神を消す事など簡単ではなかろうか。

神や悪魔の存在は、人間の記憶にあるからこその存在。

誰も覚えていない、記録すら残っていないのに、神や悪魔と言う存在はありえない。

それでも生き残れるのは緒元の神「邪神様」位である。

その邪神様ですら自我が出来たのは「人間が生まれてから」と言う、それまではプログラムの様な存在だと。

邪神様の自我ですら「人間の思い」から出来ているのだ。

まぁ、そのせいでやたらとオモチャやゲームに拘るのだが。

何分邪神と言う存在を信じているものは中二病が多いので仕方がない。

そんな人間の耳目にサブリミナルの様に繰り返し女神の事だけを伝え続ければ?

テレビのバラエティー番組で「これはハゲに効く!」とか「簡単ダイエット!」とかで「信じられる何か」を作らせることによって、何の効果まないものに、プラセボ効果にハメ。 そう言う人だけをテレビに出演させ、さらに売り上げを上げていく様に信者を獲得していけるだろう。

テレビや広告で謳っているような「これだけあれば」と言うものが有るのなら、医者が同じ病気の患者にどの様な薬が効き目があるのか悩むこともないはずだ。

それ以前に医者が要らなくなる。

そして他の神への弾圧。

魔女狩り。

その記録や記憶の抹消。

こうしてこの世界の女神は独裁をしているのではなかろうか?



それでも人間が努力して、王や貴族が称えられるようになり、英雄となり、伝説になりそうな気配が有れば・・・

女神は魔王を用意し、女神の啓示とか伝説で適当な勇者と戦わせ、あとは魔王と勇者を始末すればよい。

つまり自作自演で、脅威を排除する。

召喚者がそれに気が付いて対処しようとしても、色々やり様はある。

異世界に帰れば「実は女神を騙して勇者を名乗り、世界を征服しようとした者が魔王を作って倒したが、女神に見破られたから逃げた」と言えば良いし、残って何かをする様なら「勇者はもっと助けられたのに助けなかった戦犯である」とか「多くの女性を〇奴隷にした」と事実無根の事を言って先導すればよい。

証拠などいい加減なものでも、鰯の頭も信心からである。

メディアリテラシーの無いものには絶対者の言う事は全て真実なのだ。

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言うが、歴史は常に勝者が書き続けて来たもの。

敗者であれば神が悪魔にされ、解放者が戦犯にされる。

そして今ディーアズワールドの女神の独裁維持に利用されているだけだとバアルは気が付いたのだ。





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