悪魔なので邪神を育てる事にした 34話
- カテゴリ:自作小説
- 2018/12/01 18:46:02
~ 真の勇者への道のり ~
バアルは早速ディーアズワールドを救うべく動いた。
因みに邪神様は余裕で王女様の膝の上に乗り、頭をナデナデして貰ってご機嫌に過ごしている。
「まずは魔物の数が多すぎて、物流が滞り物資が届かない。 街道の魔物を全て薙ぎ払い、結界を張って侵入を防ぐしかあるまい」
「しかしもう、国軍は既に半壊。 これ以上兵士が足りませぬ。 現在徴兵をしていますが、使えるようになるのには幾分時間が足りませぬ」
「そこは心配ない。 私が主要の街道を制圧、同時に結界を張っていく。 問題は順番だな」
「でしたらまず、大きな都市からお願いします。 難民の数も多いですし、治安の悪化も物流の滞りで増えているのです」
「あいわかった。 では近い大都市から順に奥へ進むとしよう。 王都を中心に放射状に街道を確保すれば、そこから道が開けよう」
「バアル様、放射状と言ってもお体は1つ。 1つの城塞都市まで早馬でも10日は掛かります」
「大丈夫だ。 私はこれでも高速のサラブレッドの最高速の26倍は早く移動できる、1つの都市まで往復1日もあれば十分だ。 それに城塞都市の数もこの近くは5個くらいしかない。 寝ずに移動すれば4日以内に大まかな都市の街道の安全の確保が出来るだろう。 結界を張っても2週間くらいだ」
「ありがとうございますバアル様! 直ぐに城にあるだけ全ての食料を荷馬車に積み込んで出発できるよう手配します」
「その必要もない。 私は元より豊穣の神だったものが堕天した者。 城塞都市の周囲の田畑にまで結界を張れば、踏み荒らされた作物など5分も掛からず収穫可能に出来るようになる。 王都から出さずともそこで仕事が出来れば治安の改善も望めると言うもの、それに城塞都市を繋げれば偏った食べ物だけで過ごさなくても済むようになる。 商売も出来ればさらに仕事が増えるだろう」
「そこまでしていただけるとは うっ・・・」
国王は我慢していた涙が止まらなかった。
そしてバアルは地図を暗記し、直ぐにバルコニーから飛び立った。
音速は出ないバアルだったが、街道を塞ぐ魔獣など通り過ぎるだけで衝撃波の餌食となった。
そして移動しながら結界を張っていく。
こうして街道の安全が次々と確保されて行った。
予想外だったのは城塞都市の人々だった。
魔道管からの知らせで、魔法使いが一斉に立ち上がり、それに呼応して城塞都市を守っていた城主の私兵の半分も、村や町から逃げてきた外人も、城塞都市からさらに奥にある小さな町や村まで街道を確保するため命がけで進み始めたのだ。
『聖なる勇者がやってくる!』 その言葉は人々の心に希望の光をともしたのだ。
実際には悪魔なのだが・・・
1週間、たった1週間だった。
バアル一人では廻り切れない小さな町や村にも、命掛けで小さな村や町に閉じこもっていた人を、それこそ沢山の死人を出して開放していく。
半年近く戦い続け、敗戦の連続で疲弊していたディーアズワールドは、たった1週間で平和を取り戻してしまった。
何故か魔王は倒されていたし(邪神様のお花衛星ギガ粒子砲で)、街道は魔物を寄せ付けない封印で守られている。
後は冒険者ギルドが、魔物を間引いていけば完全に元通りだ。
人々は『聖なる勇者』の導きと、歓喜に沸いた。
しかしバアルは少し複雑だった。
かつて神だった頃は、民がみなこのように喜んでいたのを見るのが好きだった。
だが異教徒に信者に、国を焼き尽くされ、破壊しつくされ、聖典を焚書され、遺跡として埋もれ、生き残った一部の者の復讐心から悪魔となったバアル。
それが今や、女神の遣わした『聖なる勇者』と担ぎ上げられている。
女神の広告塔として。
主として使える邪神様ではなく、異世界の女神の使途なのだ。
心の中がもやもやする。
何か歯車が噛み合わないと言うべきだろうか。
実際バアルはレベル666、邪神様に至って「緒元の神」である。
下位の女神や聖女風情が幾ら召喚の儀式で魔力をつぎ込んでも呼び出せるものではない。
例えそれが聖女の力で有っても、女神の補助魔法なしに呼び出すなど魔力が全く足りないのだ。
もし出来るのなら、聖女の力を1とするなら、女神の力は9999。
昔の邪神様くらいの力は最低でもいるはずだ。
それ程の力で召喚できる女神であるなら、何故自分で魔王を倒さなかったのか?
女神の上司とも言える緒元の神、邪神様に一言の挨拶もないのはなぜなのか?
どうにも納得がいかない。
これは何か良くない事が起きている予感がするのだ。
それもビンビンと。
こんな時にバルバトスが居てくれたらと嘆いていても、居ないものは仕方がない。
もしバアルが本当に『聖なる勇者』として召喚されたのなら、邪神様はなんのために呼ばれたのか?
逆に邪神様だけで事足りたわけだから、バアルはなぜ呼ばれたのか。
邪神様は王女の膝の上でナデナデされながら喜んでいるように見える。
これでいいのか?
聖なる勇者とはいったいどんな存在なんだ?
バアルはこの世界の女神と直接話し合うか、この世界の謎を解くかしなければならないと思う。
そしてもう一度考えをまとめる。
強い力を持っているのに、女神が自分の手を汚さないで倒される魔王。
更に高位の邪神様の召喚や、バアル自身の召喚の意味。
聖なる勇者の派遣をしてくださった女神への感謝を殊更強調して叫ぶ民衆。
不自然な魔獣の多すぎる大発生と、存在しないはずの魔王に統率された動き。
守るべき人々を『聖なる勇者』に丸投げし、人の命を無駄にすり潰す女神。
何故か何かを知っているかのような邪神様。
一体この剣と魔法の世界、ディーアズワールドとは一体何なのだろう。