悪魔なので邪神を育てる事にした 33話
- カテゴリ:自作小説
- 2018/11/30 20:10:20
~ 勇者のセオリー ~
何故だろう?
ゲームでは勇者はレベル1で召喚され、最初の城の周りにはスライム程度の弱い魔物しかおらず、少しづつ遠くに行くと強い魔物が出てきてレベルを上げるのがセオリーだ。
だが現実はどうだろう?
動物の楽園に、強いものだけが集まっているだろうか?
弱いものだけが集まっているだろうか?
強いものは弱いものを食べて生きる。
だから弱い生き物が居れば、直ぐ近くに強い生き物も混在しているのが普通。
まさに今、ディーアズワールドがその状態だ。
一歩城壁の外に出れば、何が襲ってくるか予測もつかない。
最初の町から出たら、いきなりゲーム後半レベルの魔獣に鉢合わせなんて事もありうる。
だからこそ、世界中の軍隊が緻密に連携しても対処が出来ないでいる。
現在幾ら調べても、魔物の分布具合すら把握できなく、対処も難しい。
それは兵士が無能なのではない。
王家や貴族が何もしないのではない。
自治体も国に文句言うだけではない。
人間が怠けていて、勇者を待ち望んで何もしないなんてことは無いのだ。
みな生きる為、大切な人を守る為、自分で出来る事を必死にやっている。
民間ボランティアは炊き出し。
自治体は避難所の提供や、毛布の配布に医療体制の構築。
貴族は領地の治安維持と避難所の警護。
王家は貴族の自治領を繋げるための物流を手助けする国軍の出動。
それぞれめいっぱい費用を掛け、殉職した兵士の遺族には年金を支払う。
貴族の蓄財も、国の国庫も破綻寸前だ。
そんな所にレベル1の勇者なんて来られても、正直足手まといだろう。
逆に言えば現代の世界で、スーパー〇ンやガ〇ダムレベルじゃないと勇者と言えない世界。
剣だけじゃない、魔法もある世界なのだ。
火力は術師の技量によって74式105ミリ・英国ロイヤルオードナンス戦車砲にも匹敵するし、剣は魔法を帯びて、ファイヤーソード、アイスソードから、ラ〇トセイバーまで何でもありだ。
『戦いは数だよ兄貴!』の世界である。
その世界を救うため女神が呼び出したのが、レベル666のバアルと、どう見てもバアルのマスコットの邪神様である。
邪神様は、見た目魔法少女にいつもくっついて居て色々と説明をしてくれる便利な何かにしか見えない。
有名なRPGでもレベル50前後で魔王を倒せるのに、666ものレベルを持ち願いをかなえてくれると言う存在は、ディーアズワールドでもありえない程、いや世界を滅ぼす事が出来るだろう存在と言える。
逆に考えてみると、バアルがディーアズワールドを不正に染まったダメな世界と思い、改革が必要と思われたら、たった一人でもゲリラ活動で全てがひっくり返り、貴族だろうと王だろうとその意味を失い、世界はバアルの収める国になるだろう。
魔王と違うのは、人間をむやみに殺さないと言う事くらいだ。
その証拠に王女は病気にかからない魔法まで掛けられている。
自らは悪魔と言っているが、イケメンの青年。
これが「聖なる勇者」で無くて何と言うのだろう。
普通なら王は偉そうに「勇者よ、ひのきの棒をやるから、魔王を倒してこい」とか言うのだろうが、そんな事を言えるわけがない。
出来るだけ機嫌を損ねないように国を挙げてもてなしをして、魔王を倒すためにお願いをしなくてはならない。
例え難民を大量に抱え、国費が厳しい現状でも何とかしなくてはならないのだ。
地方に配布する配給を削ったとしても、国王や貴族が水を飲んで我慢しても、それより良いと思われる対策があるだろうか?
「聖なる勇者様、お越し頂き誠にありがとうございます。 細やかでは在りますが、晩餐会を開いて労わせ・・・」
「この世界の状態がわからない。 晩餐会など不要である。 直ぐにでも状況の把握が優先だ。 作戦会議の方を優先せよ!」
バアルが国王の発言を遮る。
「おお、流石聖なる勇者様!」
「私は聖なる勇者ではない、悪魔である。 そこは間違えてはいかん!」
国王はかなり錯乱しっぱなしである。
早速国の状況を説明するため、各国の将軍クラスがダレイクに急遽集まった。
先陣で戦っているものは無理だったが、戦況を把握しているものは絶えず魔道管で連絡を取り合って、地図を作成しているのだ。
その地図を見て邪神様の頭に「?」の文字がリアルに現れる。
「コレ、記述が曖昧な部分が多すぎるのじゃ」
「申し訳ありませぬ、曖昧な部分は国軍が大量に投入されたのにも関わらず、ほぼ半壊。 生き残りの証言ではこれが限界でして」
「では我がちょちょいと調べてみるかの」
邪神様は王城のバルコニーに通じる扉から外に出る。
「うんしょっと、なのじゃ」
そして邪神様はバルコニーの手すりに登り、徐に頭を少し前傾させ、お花の部分を青く光らせた。
何か嫌な光だとバアルは思う。
実際その光は「チェレンコフ光」であり、一応放射線は遮って放射能は出て居ないが、あまり見ていて良いものではない感じがする。
チェレンコフ光似た光を見て喜ぶのはイカレた車に乗って、大音響で音楽を掛けているVIPカーに乗っている奴等だけだろう。
多分・・・
しばらくすると、邪神様の頭にあるお花かの下からロケットの炎が噴射した。
その燃焼率は非常に高く、真っすぐに伸びた噴射の炎の回りには20個以上の輪っかが出来ている。
噴射エネルギーがマッハ20を超えて噴き出しているのだ。
あっという間にお花は空の彼方へ飛んで見えなくなった。
「邪神様、あれはいったい・・・」
「うむ、お花人工衛星じゃ。 地上を見る精度は蟻んこでも識別できるぞい」
こうしてバアルが各国の状況を将軍から聞いていると、何とも酷いありさまがわかってくる。
魔王が攻めてきたのは丁度収穫期の途中で、食料の殆どは放棄して逃げて来た状態。
国庫の食料もこの時期に納税されるため、在庫が乏しい。
その上街道の危険で、大量の護衛なしでは食料の運搬は不可能。
しかも荷馬車1つでさえ、騎士が20人以上護衛しないと対処できない。
荷が増え、馬車が増えればそれだけ死角が増えるのだ。
だから難民には1日1食薄いおかゆ程度しか配布できないのが現状。
そしてその裏付けは邪神様のお花人工衛星で報告以上に正確な情報で確認されていた。
バアルは勇者として魔王を倒すだけでは平和は来ない事をかみしめるのであった。
因みにこの世界を恐怖に陥れた魔王は、既にお花衛星からのギガ粒子砲で粉砕されていたのは邪神様以外誰も知らない。