悪魔なので邪神を育てる事にした 31話
- カテゴリ:自作小説
- 2018/11/26 20:34:41
~ 異世界召喚 ~
大陸で一番大きく、圧倒的軍事力を持っているダレイク王国は危機に瀕していた。
突然現れた魔王が、魔獣を操り世界中を侵略し始めたのだ。
小さな地方国家はあっという間に魔獣に潰され、難民となってダレイク国に逃げ込んだ。
森も草原も、山も河も湖も、国と国、街と街を繋ぐ街道にも魔物が溢れ、取り残された者達は急遽丸太で障壁を作ったり、近くの砦に逃げ込んで籠城するしかなかった。
しかし人間と言う物は、食料も水もトイレも居る。
街道が魔物によって封鎖されている為、物流が滞り陸の孤島となった状態だ。
このままでは兵糧が尽きて餓死を待つしかない。
ダレイク王国。
この世界で最も豊かで最も強い国だったのは、過去の幻となりつつあるのだ。
剣と魔法の世界。
女神によって守られていたはずのディーアズワールド。
そこに存在しないはずの魔王の来訪。
魔物は以前から居たが、冒険者ギルドで何とかなるレベルしか居なかった。
よほどの事がない限り、国軍が動くことは無かったと言ってもいい。
国軍が動く時は、他国との戦争の時くらいだ。
魔物より剣と魔法で世界を制する人間の方が怖いと思っていた。
今までは・・・
一般庶民が見る事もない戦争で使われるだけだった魔道管(電話の様なもの)からは、今引っ切り無しに地方国家、地方自治体からの救援要請が、何とか持ちこたえている国に入って来ている。
ダイレクの国軍だけでなく、今やディーアズワールド全ての国が手に手を取って連合となり、魔王と戦うしか生き残る道はないのだ。
残った国は孤立した街を開放するため、主要な街道から魔物を排除し物流を復活させ、国庫の食料を開放し配給する。
それだけでも多くの兵士が命を落としているし、食料も無尽蔵ではない。
小さな町や村までは手が回らない現状。
難民が逃げ込んだ地方都市でも仕事がある訳でなく、着の身着のまま逃げて来た者には、少ない配給が1日1回しか手に入らない。
勿論金があれば闇市で手に入らない事もないが、お金を持っているのは元々街に住んで居て、仕事を持っている者くらいである。
難民たちは少しでも家族や子供たちを飢えさせないため、犯罪に手を染めるものも多い。
治安の悪化で兵士を割かなくてはいけないが、魔物対策が優先される事もあり殆どの都市は無法地帯になって居る。
どの国も、幾ら連携しても、もう先は見えているのは間違いない。
しかし、ダレイク王国には伝説が残っていた。
魔王が現れし時、女神の像が輝き「聖なる勇者」を遣わして世界を救うと。
その方法は政治で悪用されぬよう、女神を信仰する最大の寺院のトップ、聖女様にだけ口伝で伝えられている。
今まさにその儀式を行うべく、女神像をダレイク王国の王城に運び入れ、儀式を始める準備を進めていく途中。
時間がかかったのは、女神像が悪用されぬよう王都から離れた寺院に有る為、途中何度も魔物に襲われ移動は難航したことが原因だが、ようやく王城に女神像が辿り着き儀式のめどが立ったのだ。
ディーアズワールドの全ての国、全ての人々の祈りが、今勇者を召喚する為に捧げられている。
女神様、この世界の危機を救う聖なる勇者の召喚を!
ただの石造だった女神像が光始め、徐々に輝きを増していく。
そしてその目の前には螺旋状に輝く古代文字の羅列。
魔法陣とも違う螺旋の文字列から虹色の光があふれ出し真っすぐ上に立ち上り、その虹色の光を囲むように下から上へと天使の輪のようなものが登っていくではないか。
徐々に現れる何者かの姿。
国王も聖女も固唾をのんで見守る中、それは眩しい光に包まれて現れた。
「おおぉ」
国王がその眩しい光を見て、勇者と確信し感嘆の声を上げる。
が・・・
そこに現れたのは、イケメン悪魔バアルとお花クラゲの邪神様だった。
まるでペットのクラゲを散歩させているかのような、スーツ姿の男だったのだ。