Nicotto Town


小説日記。


青色【短編集】


#-晴天

ビルの屋上。
赤黒い水溜まりを見下ろして頬の血糊を手の甲で拭った。
見上げた空が眩しく見えれば見えるほど、あの日のことを思い出す。
目に見えるもの全て、周りのものが何もかも形を無くしてゆく、極彩色のスクリーン。
相変わらず仕事は忙しい。
次に日本に帰れるのは、きっと半年くらい後だ。

「ままならねぇよ、何もかも……。」

靡く金髪をかき上げて、トドメの一発を放つ。


#-氷像

スケッチブックを滑るクレヨンが、今日は一段とよくキャンバスを彩る。
緑の庭に揺らめく木陰。
記憶が鮮やかに煌めけば煌めくほど、スケッチブックは色を増す。

「お姉ちゃん!」

先に駆け出したこげ茶色の髪を追いかけた。
追いつきたくても追いつけなかった背中。
絆と想い出が薄まるたびに、伸ばした手が宙を掻く。


#-波紋

頭痛と眩暈。
暗がりに沈む狭い廊下で膝を抱える。
狂ったように脈打つ心臓を押さえつけて啜り泣きを漏らすたび、惨めな自分を思い出す。
脳髄まで汚染する過去の記憶が、胸の奥底に突き刺さって抜けてくれない。

「……史伽。」

背後から聴こえる低い声。
びくりと肩を震わせて振り返れば、見慣れた心配顔がこちらを見ていた。
這いつくばって手を伸ばす。触れ合った指先の温度が一瞬、感じないほど噛み合わない。
冷えきった身体を包み込む、まだ寝床の温もりを引き摺る彼女の体温。
起きがけ、少し速いけれど一定のリズムを刻む拍動が鼓膜を通して悪夢を掻き消してゆく。
背中に回された腕も、胸の温もりも呼吸音も、傍で感じれば感じるほど手放したくなくて憎悪に似た感情が静かに波打つ。
世界で一番安全な場所。

あなたの鼓動を聴いていると、涙が出るほど安心する。





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