夜霧の巷(3)
- カテゴリ:自作小説
- 2018/04/01 17:15:00
病室に、そっと入ると雪枝は窓に向かって立っていた。高台にある港総合病院からの見晴らしはよかった。港町の風景を見ているだけで気分転換になった。岸壁に係留されている外国籍の貨物船が荷揚げ作業をしていたが、人の姿が昆虫のように小さく見えた。
「起きていて、大丈夫なのですか。」
「痛み止めが効いているのか、今日は気分がいいのよ。」
こう言って、雪枝はベッドに戻った。
「それは、よかった。」
美佐は頼まれていた今週発行の週刊誌をベッドの横にある棚に置いた。寝ながらでも、雪枝は読み物の刺激で気分を高揚させたいのであろう。
「あのね。今日、先生に自分の細胞から臓器を再生することはできないのですかと聞いてみたのよ。そうしたら笑われたわ。簡単に臓器を培養できたら医者は要らなくなりますからといわれた。」
「でも、将来的にできるかもしれませよ。」
美佐は雪枝の顔を見た。
「私も専門的なことは分からないけれども、移植するのではなく、人工的に自分の細胞から臓器を培養して、傷んでいる臓器に組みこめたら、いいのにと夢みたいなことを考えてるのよ。薬による抗ガン治療にも限界があるし。病院で寝ているといろんなことが思い浮かぶの。何か新しい治療法に挑戦してみたい。上手く治療できなくても、実験台になって、これまでと違った方法で病気に挑戦してみたい。こんな気分になることがあるのよ。なんでも、やってみないと分からないじゃない。」
「ママが実験台になるのですか。」
こう言って、美佐は絶句した。
「まあ。そういうことね。けれども、私はね。先生に言っておいたの。だって、身寄りもないし、死ねば、それっきりじゃない。生き返れる確率がないのなら、博打よ。馬券を買った気持になれば、いいことじゃない。大当たりすれば、百万円のワインで乾杯する。」
植村雪枝は、ハハハと笑った。度胸の据わった人であった。
「ママには負けます。」
「それはそうと、今朝のニュースで昨日の夜、酔っぱらって河に落ち、海に浮かんでいた人がいたとニュースで言っていたね。事故で死ぬことを想えば、臓器の差し替えなんか、なんでもないのじゃない。」
こう言って、雪枝はまた、大笑いした。
小説。まーあまりにも、普通だと、逆に、書けない。ですよね。
でも、亡き父が言及していた。
普通に生きることが、一番難しいと。
ごま塩ニシンさんは小説家なんですか^^?
思わず(1)から読んでしまいました。続きが気になります(#^^#)