Nicotto Town


ごま塩ニシン


おすがり地蔵尊秘話(30)

「住職は大変喜んでおられました。地蔵さんが現れ、マスコミにも注目されているので、何とか、お地蔵さんを地域おこしに役立てていきたい。これも木原さんというご縁がもたらしてくれたものだと言っておられました。」
「僕は、何もしていないよ。礼をいうなら集中豪雨だよ。一度に、どひゃっと降ってこなければ、土砂崩れが起きなかっただろう。人生、何が不幸で何が幸いか、分からないからね。昔の諺通りだよ。」
「そうですね。」
  運善と名乗る托鉢僧は満足そうにコーヒーを飲んでいるので、腹もすいているだろうと思い 私は焼けたトーストを皿にのせて出した。
「この地蔵さんが、地域おこしになるのかね。」
 こう反復しながら、私は気乗りがしないというよりもイメージが湧いてこなかった。逆に心の中では、不安な黒雲がモクモクと広がってくるのを感じた。直感というのは不思議なもので、不安が不安を呼び込んでくるのであろうか。しばらくするとガヤガヤという大勢の声がしたかと思うと、庭先に十数名の男女の集団がやって来たのである。
「これ、この地蔵さんやがな。」
 めいめいが口々に言っている。
「そや。テレビで見た地蔵さんや。ほんま、ええ御姿されてますな。」
「お地蔵さんに、おすがりしている人の姿も可愛らしいね。」
「私らかて、おすがりしたら、願いが叶うかもしれんね。」
「そうやね。なにか、親しみがわいてくるね。孫の受験のこともあるし。」
「娘の就職のことも、頼みたいわ。」
「息子の嫁さん。早く決めて欲しいわ。」
「息子の嫁さんに、後継ぎができたらなあ。」
 地蔵さんを取りまいて、それぞれが自分の思いを投げかけては、地蔵尊を撫でまわしている。こうした光景を硝子戸越しに眺めていた私は、やがて群衆のエネルギーが自分に向かってくるのではないかという不安に襲われた。
 この時であった。誰かが、部屋にいる私と托鉢僧に気付いて、わっと押しかけて来たのであった。あっという間に硝子戸が開けられ、私と托鉢僧の前に、いろんな種類の菓子を積み上げたのであった。これには二人とも慌ててしまった。




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