チョコっと佳い話
- カテゴリ:日記
- 2018/02/11 09:05:30
チョコにまつわる、大好きな話を紹介しちゃおう。
田付たつ子の『巴里』三部作エッセイのどこかにあった。
1950年代半ば、彼女がパリでタクシーに乗り、運転手に話しかけられる。
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「マダムは支那人かい?」
「いえ、ニッポンよ」
「そっかい。俺も戦ったけど、日本の兵隊さんは勇敢だったってな」
「そう……でも戦争終わってから、みんな大変よ」
「お国じゃ食う物にも事欠いてんのかい?」
「そうね……」
「ま、勝った方も負けた方も、どっちも大変だわな……でもこっちみてえに旨いもんなんぞねえだろ? 菓子とかよ」
「ええ、お菓子なんて、とてもとても」
しばらく運転手は黙り、彼女に切手を持っていないか尋ねる。彼女は日本の知人から届いた封書に貼られた日本の切手を示す。
「こんな使用済みの切手でいいの?」
「おう、上等だ」
運転手はそれを受け取り、自分の住所と名を書いた紙片を渡す。
「マダム、国に帰ったらよ、兵隊さんやそのお子さんに頼んで、俺の住所まで古切手を送ってくれるよう頼んでくんねえかな。俺はジャンジャン稼いで、お礼にこっちの旨いチョコを送るよ。お互い様だもんな」
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田付たつ子がこの話を紹介したところ、多くの手紙が運転手の元に届き、
チョコが海を渡り送られてきたという。パリジャンの心意気である。
運転手アルマン氏のその後を私は知らない。フランスの庶民、偉大なり。
叔母から貰った田付たつ子のエッセイで私はフランスにかぶれました。
巴里の庶民の話が、どれもこれもステキなのです。
お菓子が山ほど安値で手に入る現代では、この話の風情は伝わりにくいと思いますが。