Masqueradeスピンオフ アクィロー編
- カテゴリ:小説/詩
- 2017/12/31 12:02:41
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注意・この物語はフィクションです。
登場する人物・事柄は全てARCHMASTERです。
また、悪魔の階級、魔界の設定等、全てこの物語の中だけのものです。
ご了承くださいませ。
ALL FOR ONE masqueradeスピンオフ アクィロー編
ピピッと短い電子音で目覚める。
「…ん~~~…」
ググッとベッドで体を伸ばして。
ナイトテーブルに置いてあったスマホを確認する。
―おはよ~!―
幼馴染からのいつものメールに、こちらも ―おはよう―と返して。
もう一名の幼馴染からのメールはない。
『…あいつ…また出張に行ってんのか…?』
ベッドを抜けだして、まっすぐキッチンへ。
朝のコーヒーをセットして、出来上がるまでの間に、簡単にベッドメイクと朝食の用意。
家を出て、一名で暮らし始めてから、昼と夜は外食が多いので。
朝は自分で作るようにしている…と。
ふと、家にいる時のことを思い出した。
『…今さらだけど、僕は母の手料理を食べたことがないな…』
大貴族の見本のような家には召使いがいて。
家の中外のことはもちろん、身の回りのことまで、一切合切お任せなので。
長く伸ばした母の爪は、いつも美しく手入れされており。
料理などできるはずもなかった。
今ではきっと、僕の方が上手だと思う。
もっとも、ちぎったレタスと、切っただけのキュウリやトマトなんかでサラダ。
ベーコンエッグにバタートーストと、簡単ではあるけど。
家で食べていた、完璧なイングリッシュ・ブレックファーストよりも美味しいと思える。
食器を片づけて、シャワーを浴びたら着替え。
これも家では、今日着るものが上から下まで用意されていたけど。
今は自分でクローゼットから、その日着るものを選ぶ。
アイロンがけをしないと、シワシワのを着ないとならないので、上手なアイロンがけも覚えたし。
休みの日には、掃除や洗濯だって自分でやる。
1LDKのここは、家と比べれば広さは10分の1にもならないけど。
僕にとっては、十分快適な空間だ。
おっと!仕事に行く時間だな。
*
士官学校の専門科を卒業して、母に勧められるまま元老院に就職したのだが。
母の体面を保つために、ほとんどコネで入ったような場所で居心地が悪く。
卒業したら家を出ようと、当初から計画していたとおり。
母には内緒で、こっそり準備をして、手に入れた一名での暮らし。
当然の如く、母は狂わんばかりに泣き叫んで止めた。
『あなたまで私を捨ててゆくの…?』
ちょっと待て!
父がこの家を出ていったのは、元はといえば貴方の所為だろう。
侯爵であった母の実家は、実力主義についてゆけず、少しづつ衰退しており。
事業を起こして成功していた伯爵家の父と結婚することで、何とか体裁を保っていたのだが。
貴族至上主義が抜けない母は、自分より格下の父との結婚生活に常に不満を持っていて。
何かにつけ当たり散らしては、喧嘩の絶えない家で。
僕が士官学校に入学する前には、すでに離婚していたのだ。
僕に不自由がないようにと、莫大な養育費は、もちろん僕にも使われていただろうが。
母のドレスや、宝石にとって代わり。
この先の長い僕の一生を、母の贅沢品のために使役されるのかと思うと虫酸が走った。
以降、母とは完全に縁を切り、連絡先など一切教えず。
元老院を辞め勉強をし直して、僕が選んだ就職先は刑務庁だった。
実力主義と言う国家を創り上げた、サタン第42世大魔王陛下という方が、どんな方なのか興味があったのと。
一度、就職のことで父に相談した時に、『外の世界を見なさい』と助言されたからだ。
*
「おはようございます」
「おはよう…早いねぇ」
「新人なんで」
魔界刑務庁警備部公安課。
ここが、今の僕の職場である。
刑務庁は主に、内敵に対する部署で。
魔界において、内敵によるテロ等の大きなものから。
強盗、窃盗などといった、細かい犯罪者の取り締まり。
投獄犯の管理、取り調べ、刑の執行。
国家幹部の警護等、多岐にわたる任務を一手に引き受けている。
僕の所属する公安課は、テロなどの組織的な犯罪に関する疑いのある者の抑止や調査にあたっている…いるのだが。
「そう言えばアラストル長官が、お前が出勤したら、警護課に行けって伝えてくれって…」
「それを先に言ってくださいよ」
デスクで立ち上げかけたPCもそのままに、急いで10階上の警護課へ向かう。
「おはようございます…アクィローです」
「おぉ、朝から呼びつけてすまんな」
「いえ、なんとなく察してました…本日予定の園遊会ですか…?」
「そうだ…規模がでかいので、あちこちから協力者を募集中でな」
今日は午後から王宮で、『大園遊会』なる行事がある。
サタン第42世大魔王陛下を始め。
ディアーヌ皇女陛下、各省庁の長官クラスはもちろん。
内外を合わせて、招待客は三千名ほどを予定している大規模なものだ。
まずは、王宮の広い中庭で、立食式の昼食会。
休憩を挟んだ夜は、招待客を厳選しての晩餐会と舞踏会が予定されており。
数を厳選しているとはいえ、千名はくだらない。
警護課は、5~6名ほどが一組で、第一係から第十係に分けられており。
視察などでお出かけの際にはローテーションで、陛下の一番近くで警護にあたるのだが。
園遊会や夜会など、広い会場での警護の時には、全員が就くし。
皇女陛下がお出ましの時は、二手に分かれなければならないので、腕に覚えのある協力者を募集する。
「君は第五係に入って、ディアーヌ皇女陛下の護衛に就いてくれ」
「了解です」
「アラストル長官のお墨付きだ…期待してるぞ」
「ご期待に応えるべく努力いたします」
遥か昔、まだ母の支配下に在った、士官学校の本科生の頃。
一度、皇女陛下に剣を向けたことがある。
あの時は、皇女陛下の御学友に、シャツ一枚を見事に切り刻まれたが…。
このことが公になっていれば、今ごろ僕は、王家に対する逆族と見做され、刑罰に処されていたかもしれない。
貴族至上主義の母の教えに、ある意味洗脳されていたとは言え、若気の至りではすまないだろう。
シャツ一枚で俺の伸び切った鼻っぱしをへし折った。
ヴェルニエ伯爵家のソレイユに目を覚まさせられ。
皇女陛下に向けた剣を、皇女陛下を守るために振るう。
面白い因縁だと思う。
*
良く晴れた午後。
王宮の中庭。
キラキラと煌めく王族にしか出ないブロンド。
慈愛に満ちた深い藍色の瞳の大魔王陛下と、美しいサファイアの瞳の皇女陛下が並んで立てば。
周りからは、『…ほぅ』と羨望のため息が漏れる。
代わる代わる挨拶に参上する招待客と、にこやかに談笑している様子を。
少し離れたところから、周囲に気と目を配りながら窺っていると。
「…あら…先輩…」
「…っ…」
皇女陛下の御学友として、園遊会に招待されたのだろう。
ヴェルニエ伯爵令嬢ソレイユに声を掛けられた。
「ちゃんとディアを守ってますか…?」
「守っている…それが僕の仕事だ」
「…ふ~ん…」
貴族の御令嬢らしく、レースとフリルの愛らしいアフタヌーンドレス姿で。
こうしてみると、僕にはひとつの傷もつけず、シャツ一枚だけを切り刻むほどの剣技の持ち主には到底見えない。
「まぁ、先輩が大魔王陛下やディアを守ってくれるなら、心強いですけどね」
「お前に言われたくはない」
僕の生きる世界を広げてくれたことには感謝しているけど、それを素直に言えるほど、まだ達観してはいない。
それでも、この世界の頂点に立つあの方を、みんなで守ってゆく先に、未来というものがあるのなら。
僕にはどんな未来が待っているのか。
この目で見極めてみたいと思う。
~Fin~
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あのモブキャラさんがこんなに大きくなって・・・ウルウル^^
ソレイユによって、気づかされた高慢な心はすっかり消えて今では自立できたのですね^^
元々剣自慢だったから、磨きをかけたのかな?
モブキャラから広がって名前もいただいたすっかり魔界のキャラになったね^^
今回活躍の刑務部に所属なのですね^^
ところで、ミュミュちゃんとの恋の話は。。どうなるのかな?気になるww
この部屋でアイロンがけしてるの想像しちゃったよ。
……ちょっと切なくなった♡(。→ˇ艸←)
アクィロー、いい男になったよね〜。
ミュィリエルちゃんと早くちゃんとくっつけばいいのにww
先輩、ソレイユに対して、いつまでも素っ気ない態度ですねぇw
やっぱり、エオスと結託して、ミュミュに告白するように突っつくか……(どういう流れw)
部屋余ってるなら三人でシェアする!!
床の模様に沿った本棚の配置の奥に寝室というつくりが住み心地良さそう