Nicotto Town



ストルガツキー兄弟の『路傍のピクニック』


半時間前、私はドヒェーと叫び、ひっくり返りまして、
『ストーカー』というタイトルで刊行され映画にもなった、
1972年発表の、この予見的SFについて語りたくなりました。暴走陳謝。

ウクライナに、チェルノブイリの立入禁止地区に侵入し歩き回る、
ストーカーと呼ばれるサブカル的活動があるという記事を読んだのがきっかけ。
え、ストルガツキーじゃねえかと驚いて少し調べ、次にビックリしたのは。

2007年に『S.T.A.L.K.E.R』というサバイバルホラーPCゲームが発表され、
いまだに伝説的な人気だという。マーッタク知らなかったのでこれも調べた。
『ゾーン』という危険地帯で生き残り宝を持ち帰る。どうやらほぼ原作通り。

この影響でストーカーというパフォーマンスが発生し現在に至るらしい。
ストルガツキー兄弟が生きていたら何というだろう。爆笑するのだろうか。
頭を抱えるのか。殴りに行くか。苦笑いして許したのだろうか。

私は主人公レドリック=シュハルトが大好き、自作小説でも真似ている。
ストルガツキーとレムの違いの一つはヒロイズムの有無ではないか。
ストルガツキーは『個/情』、レムは『種/知』としてのヒトを語るからだろう。

知性の限界とディスコミュニケーションを立脚点としてもなお、
知性と理性の普遍性(性が多いな……)を信じ苦闘するのがレムの主人公。
ストルガツキーの主人公は、不条理と未知にドップリ嵌り『異化』する。

レムにも『金星応答なし』『砂漠の惑星』『枯草熱』等の作品がありますが、
書くのに飽きて(彼としては)ご都合主義で適当に結んだ気もする。
真骨頂は『捜査』『浴槽……』『現場検証』『ゴーレムⅩⅣ』あたりか。

異化した先で、それでも進もうとするヤケッパチな生のベクトル、
知性の放棄も理性の崩壊もOK、ロシアの農夫の如き土臭い野蛮な息吹、
ストルガツキーにはこれを感じます。三部作や『十億年前』『蝸牛』でも。

『路傍のピクニック』のシュハルトは野卑な山師、一発屋です。
食うため、生きるため、疲れた女房や異形の娘を養うためゾーンに通う。
異文明の痕跡や来訪の解釈を科学者とダベったりするが、実はどうでもいい。

『老人と海』『イワン・デニーソヴィッチの一日』や、
小松左京『果しなき流れの果てに』と共通性・類縁性も感じた。
カジキマグロもラーゲルの極寒も、時間管理者もゾーンも似たようなもの。

端的にいえば、これがホモサピエンスの意味だよな、と思ったのです。
邦題の『ストーカー』は、私にとっては格好いい男の代名詞であった。
ストーカーという語が変質者と同義になったころ、無念で涙した。

ところで『路傍のピクニック』、何を予見したか勘違いされてるのでは?
チェルノブイリと結びつけるのは短絡的で皮相的過ぎます。
多極化した世界を、理解不能の新社会を生きる姿と捉えるほうがずっとイイ。

結末でシュハルトはゾーンに出かけ『玉』に出会う。幻覚かもしれない。
彼はそこで全霊をかけ、咆哮する。ガリー=フォイルと双璧のカッコよさ。
ゾーンは隔離された場所じゃなくて、どこにでも現われうる。

近くのコンビニに肉マン買いにいったら、御用納めで出社したら、
ご無沙汰していた親族に年始の挨拶に行ったら、そこがゾーンかも。
ガイガーカウンターは鳴らない。感知不能の未知の狂気の遍在可能性だ。

こういう認識で活動し「ストーカー」を名乗るんなら私は納得するが、
核廃絶や民族自決といった、よくある社会運動で使ってほしくなかった。
ゾーンに挑むストーカーは、私の好きな『ヒト』の隠喩だったので。

万が一ゲームをご存知の方はぜひ一度、原作も読んでいただきたい。
タルコフスキー映画とも別物です。脚本『願望機』ともずいぶん違う。
私は大野典宏氏が改訳する前の、故 深見弾の訳文が好みです。


アバター
2017/12/28 20:46
>ヘルミーナさん

秘密都市プリピャチの犠牲者遺族をスヴェトラーナ・アレクシェーヴィッチが訪れる番組を
見たことがあります。消防署、バス避難のため市民が集まった広場、病院や集合住宅、
そうした場所の映像も確か入っていました。

一つお笑いを。ウクライナでゲームからストーカーが生まれる経緯のレポートらしい、
「チェルノブイリ、現実の世界」という本がamazonでヒットしたので見たんですが……
機械翻訳でもここまでひどくはないだろうという想像を絶する文章。呆れました。
アバター
2017/12/28 18:46
FPSゲームが好きなので『S.T.A.L.K.E.R』知っています(未プレイだけど)。
ウクライナのチェルノブイリ跡に侵入して云々なんてサブカル的行動があるんですね、
わたしも腰を抜かすほど驚きました。

チェルノブイリといえばそこで働く労働者のための街、プリピャチ市が有名ですが、
『Call of Duty : Modern Warfare』というFPSゲームにはプリピャチにSAS2名が侵入、
テロリストの親玉を暗殺して(有名な)遊園地でヘリに回収してもらうというミッションがあります。
プリピャチ市の特徴的なところはほとんど出てくるんじゃないかしら?



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