Nicotto Town



スタニスワフ・レムの話題をふたつ。


その1。国書刊行会(酷書と評したい方もいようがご勘弁を)の長期事業、
『スタニスワフ・レム コレクション』全6巻がようやく完結していた。
最終巻は『主の変容病院・挑発』というタイトル。なな、なんだ?

『主の変容病院』は、初期の純文学『失われざる時』の第一部だという。
二部と三部は御大自ら封印しちゃった、いわくつきの作品なんです。
戦後文学というべきなんだろうな。こりゃ読みたい。

第二部以降を封印したのは、共産主義ユートピア思想が露骨だったからだそうな。
ごく一節を誰かが訳してくれたのを読んだ記憶がある。
『金星応答なし』解説の一部だったかな? 旧ソ連的労働賛歌が微笑ましい。

ただ『金星応答なし』もそうなんだけど、レムの『若さ』が弾けてる気もした。
『エデン』以降の重厚な作風で覆い隠されてしまってるんだけど、
彼の若さ、若気の至りが発揮されている作品ってのは少ない。惜しいと思う。

それでね、もう終わったみたいだけど、完結記念キャンペーンやってて、
ツイッターでつぶやくと、特製クリアファイル貰えたんですって。
わー、欲しかったなー。手に入れた人がいたら教えてチョーダイ。

その2。昨夜たまたまNHKのEテレ『100分de名著』を眺めたら……
ゲゲゲ、なんで『惑星ソラリス』のハリーとケルビンが出てるのよ!
『ソラリス』を取り上げる第2回(全4回)だった。ビックラしちゃった。

この番組、横目で眺めてたが、イライラすることが多いので見ていない。
でも『ソラリス』が名著として認定されたことには感慨がありますね。
本格SFとしては初めてです(『変身』『フランケンシュタイン』は既出)。

本格SFとして『ソラリス』を取り上げた理由を妄想する。
『幼年期の終わり』『われはロボット』『残像』『恋人たち』あたりが、
現代的テーマに密接だし分かりやすいが。まさか、国書刊行会の関係者が……?

解説で沼野氏が出演している。朗読劇が展開する場面で違和感が。
そうです、飯田訳で刷り込まれているので、砕けた台詞に馴染めない。
ソラリス学の失敗の歴史と共に、対話のぎこちなさが魅力だったんですよ。

そうだよなー、俺は『ソラリスの陽のもとに』の愛読者なのであって、
『ソラリス』の愛読者とはいえないんだよ。『惑星ソラリス』は好きだが、
ソダーバーグの映画は死ぬまで見ないと思うしね。

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レムをSF界最高の作家の一人とすることに概ね異論はないのですが、
知の巨人、賢人と持ち上げすぎる評価には抵抗を覚える。
吉田兼好や柳沢淇園を、所詮偏屈な趣味人に過ぎぬと思いたいのと同様です。

レムの魅力の一つは対話劇です。彼らの微妙な齟齬を楽しむのが私は好き。
ディスコミュニケーションを前提とし、それでも対話を継続するさまは、
安酒場で貧乏人が出会い、大声で喚きあうのと似た『風情』を醸し出す。

多様な解釈を、真偽や優劣に拘泥せず並置させることで生まれる『味』。
日本がレムを評価した理由の一つは、東洋的な(汎神論的)多元性だと思う。
『文明の生態史観』で、極東と東欧が対置された(うろ覚え)のを想起する。

興味があり少し検索してみた。レム作品の結末の解釈を尋ねる人が散見される。
ああ……彼女だか彼だかは『正しい』解釈に毒された現代の読者なんだな。
こういう方にレムは不向き。答えではなく、謎を提示するのが真の『師』だ。




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