スタニスワフ・レムの話題をふたつ。
- カテゴリ:小説/詩
- 2017/12/12 08:59:00
その1。国書刊行会(酷書と評したい方もいようがご勘弁を)の長期事業、
『スタニスワフ・レム コレクション』全6巻がようやく完結していた。
最終巻は『主の変容病院・挑発』というタイトル。なな、なんだ?
『主の変容病院』は、初期の純文学『失われざる時』の第一部だという。
二部と三部は御大自ら封印しちゃった、いわくつきの作品なんです。
戦後文学というべきなんだろうな。こりゃ読みたい。
第二部以降を封印したのは、共産主義ユートピア思想が露骨だったからだそうな。
ごく一節を誰かが訳してくれたのを読んだ記憶がある。
『金星応答なし』解説の一部だったかな? 旧ソ連的労働賛歌が微笑ましい。
ただ『金星応答なし』もそうなんだけど、レムの『若さ』が弾けてる気もした。
『エデン』以降の重厚な作風で覆い隠されてしまってるんだけど、
彼の若さ、若気の至りが発揮されている作品ってのは少ない。惜しいと思う。
それでね、もう終わったみたいだけど、完結記念キャンペーンやってて、
ツイッターでつぶやくと、特製クリアファイル貰えたんですって。
わー、欲しかったなー。手に入れた人がいたら教えてチョーダイ。
その2。昨夜たまたまNHKのEテレ『100分de名著』を眺めたら……
ゲゲゲ、なんで『惑星ソラリス』のハリーとケルビンが出てるのよ!
『ソラリス』を取り上げる第2回(全4回)だった。ビックラしちゃった。
この番組、横目で眺めてたが、イライラすることが多いので見ていない。
でも『ソラリス』が名著として認定されたことには感慨がありますね。
本格SFとしては初めてです(『変身』『フランケンシュタイン』は既出)。
本格SFとして『ソラリス』を取り上げた理由を妄想する。
『幼年期の終わり』『われはロボット』『残像』『恋人たち』あたりが、
現代的テーマに密接だし分かりやすいが。まさか、国書刊行会の関係者が……?
解説で沼野氏が出演している。朗読劇が展開する場面で違和感が。
そうです、飯田訳で刷り込まれているので、砕けた台詞に馴染めない。
ソラリス学の失敗の歴史と共に、対話のぎこちなさが魅力だったんですよ。
そうだよなー、俺は『ソラリスの陽のもとに』の愛読者なのであって、
『ソラリス』の愛読者とはいえないんだよ。『惑星ソラリス』は好きだが、
ソダーバーグの映画は死ぬまで見ないと思うしね。
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レムをSF界最高の作家の一人とすることに概ね異論はないのですが、
知の巨人、賢人と持ち上げすぎる評価には抵抗を覚える。
吉田兼好や柳沢淇園を、所詮偏屈な趣味人に過ぎぬと思いたいのと同様です。
レムの魅力の一つは対話劇です。彼らの微妙な齟齬を楽しむのが私は好き。
ディスコミュニケーションを前提とし、それでも対話を継続するさまは、
安酒場で貧乏人が出会い、大声で喚きあうのと似た『風情』を醸し出す。
多様な解釈を、真偽や優劣に拘泥せず並置させることで生まれる『味』。
日本がレムを評価した理由の一つは、東洋的な(汎神論的)多元性だと思う。
『文明の生態史観』で、極東と東欧が対置された(うろ覚え)のを想起する。
興味があり少し検索してみた。レム作品の結末の解釈を尋ねる人が散見される。
ああ……彼女だか彼だかは『正しい』解釈に毒された現代の読者なんだな。
こういう方にレムは不向き。答えではなく、謎を提示するのが真の『師』だ。