Nicotto Town


今年は感想を書く訓練なのだ


VR戦国ファンタジー【その2】

2.キャラクリ
 そこは丁度漫画喫茶の個室であった。リラックスチェアーがあり、前方にはモニターとLEDが光るそれっぽい装置が高級とはとても言えないラックに備え付けてある。脇にある細身のロッカーには『衣服を脱いでから装着してください』とあった。開けて手に取ると、とても軽くて簡素な宇宙服のように見える。メットも付いている。
 扉の裏に注意書きが、なになに……ん? 滲んでて読めないよ。まあいいか、あらゆるゲームやアトラクションに精通した俺様なら無問題でいける。メットを被り、コスモスーツ(宇宙服)のジッパーを上げようと手を伸ばす俺、オイラ行きますー。
 ぴーぴーぴーっ!
「やめてください! 汚い。--バイオパット(おむつ)を付けてからって書いてあるでしょ」
「あ! そうなの? ごめんなさい」
 よく見ると着て来た衣服を入れておく籠には、準備よくそれが置いてあった。みてる、見られてる、監視されてるの、あの目で見られているの俺? --何だこの感覚は。
 コスモスーツの手足や体の至る所に何やらパットが縫い込んである。わかる、分かるよ俺には、人体の情報をキャッチするセンサーが仕組まれているんだよな、見たことある。ジッパーを上げるとセンサーが反応して、リラックスチェアーに座るよう促された。つづけて。
『カードを入れてください』前面のスロットが光る。
 差し込むと、しゅぅうううっと音がして
『只今、デバイス・スーツの同期を行っています』
 体に密着してきたのが分かる。
 ひゃっこい、心地よいそして
「本格的だな、どきどきしてきたぜ」
 ついでにフィットして来たスーツの感触を確かめる。すると何か股間に違和感。
『音声を認識しました、だけど指示があるまで余計な事はしないでください。ふ』
 ふ? あれ、何か聞こえたけど気のせいだろうか、まあいいか。気を付けよう。てか【デバイス・スーツ】って言うのか何これかっくいい。


 しばらくすると個室内の照明が落とされた。
『メットのシールドを下げてください』
 すかさず降ろすと、そのシールドにはキラキラと光るイントロ画面は何かをローディングしている。
【VR関東三国史~風雲箕輪城~(次世代MMOVRPG Ver1.0 by 八神)】
 タイトルはいまいちだけど、キャラクリが始まった。
『名前をどうぞ』
「ええと、武田信玄」
 ポンッ!
『名前をどうぞ』
「なに! もう取られているのかよ。ならこれ、上杉謙信」
 ぴーぴーぴーっ!
『ふざけないでください。貴方は夏目吉春でしょ』
 なんだ、そうか、中の人のプロフか、初めからそう言えよ。
「夏・目・吉・春--」
 一通りの質問に答えると、いよいよ目の前が開けて、作りたてのアヴァターは仲間の待つ小部屋に飛ばされていた。全身感応むふふフルだいぶ状態で。皆、自慢のキャラクリを確認するように、手を裏返したり腰をひねってお尻を見たりと満足そうに微笑んでいる。俺以外は。

 失敗だ、なんてこった、途中からアバターのキャラクリに移っているとも気付かずにいた。まんまの俺がそこに立っていた。俺のこの全身感応むふふフルだいぶは、どうなってしまうのだろうか。さっきまでの焦燥感とは裏腹に、ゆらゆらと目を泳がせる俺。
 ん?--はっ! あの娘じゃね、レコじゃね、じじいの。辺りを見回すが、じじいは見当たらない。まさか俺と同じ過ちを犯すはずはあるまい。なんかこっち見てる。飛ばしてくる、斜めに、これは絶対好意を持ったあれじゃあない、まだ飛ばしてる。やな感じ。
 おれは翻訳した
『やっちまったな! バカでしょあぁた、軽自動車が似合ってんのよ、あほ、大っ嫌い』
 たぶんこうだ。いや、違っていてほしい。
 こうなったら、経験値を稼ぎステータスを上げ、余ったポイントで風来の床屋さんにプチ整形してもらおう。それしかない。人より努力だ、なせばなる、なせるはアラブの何とかだ。じいちゃんが言ってた。


(ぴんぽんぽんぽ~ぉおん『では順番にログインさせますので、番号の書いたスロットに入ってお待ちください』ぽんぽんぴんぽ~ん。--(ふふっw))


 もういい、聞き飽きた、ふふ。解説によると、インしたら始まりの村で、一通りのレクチャーを受けてからお城を目指すまでが今回のデモプレイらしい。よーしまってろよー! 俺は、ガンガンレベルを上げて、廃パーおニャン娘とPT組んで、仲よくなって、感応むふふ全身フルだいぶゲットだぜ!

 すると、スロットの上にある光が点滅を初めシールドが降ろされると、薄暗い緑の点滅に変わる、まるで息をするような間隔で。アヴァターがログインして行った証だ。7つまでその光景を見送った。残るは俺のみ。
 初めはドキドキしていたが、すでに呼吸が止まりかけている。なぜっなぜ~~♭ 

 歌ってる余裕はない。

つづく




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