Nicotto Town



自作小説の番外編


ーートツゼン、オジャマシテ、スンマセン。

格闘家の如きいかつい巨体の男性は半目で、三十絡みの中肉中背の濃い茶髪女性は無関心に、猫背で人相の悪い四十男は諦めと難詰の入り混じった表情で、突然訪れた私を見てらっしゃるわけです。四十男が一言、いいました。

「……で?」

そうですよね。御三方が暮らす地方都市の賃貸3DKの食堂に朝から伺い、お茶まで出していただいて申しわけない限りです。ですがワタシにものっぴきならぬ事情というものがあるのです。

ーージツハ、ワタシノモノガタリ、めたふぃくしょんナノカシラ? ト、ギモンヲイダイテオリマシテ。ソノアタリニツイテ、ゴイケンヲ、ウカガイタク……。

格闘家風の男性が肩を竦めて反応してくださいました。ありがたや。

「フィクションも私小説もろくに書けない人が、メタフィクション書けるワケないとボクは思うなー。虚構と現実の相互浸透による文学的衝撃、だっけ? ボクよく分かんないけど、現実見てない人が虚構を書くって、どーなのかなー?」

グサ。さすがですね、不死の怪物さん。某放送局で貴方に似た設定のドラマ始まっちゃった件には触れないでくださいね。一番焦ったのワタシなんです。

ナルホド、オセツ、ゴモットモ。

「……それより、だ。あたしの設定について、だ」

わ、言われると思ってました。三十路女さんの外見は、およそワタシの好ましく思う要素を全てぶちこんでおるのですが、なにゆえそんなにオッカナイ方になってしまったのか。

「甘ったれるな。あたしの容姿について何文字書いた? 歯並びの件がたまに出てくるだけじゃないよ。二言目には地味だとか世話焼きだとか……血の吸えないバンパイアって設定、誰が得してんの? いっそ不死人とかでいいじゃん」

イエ、ソノセッテイ、チャント50話イコウデ……フクセンモ、ハッテマスシ。

「アレじゃ誰もわかんない。コイツらも首捻ってるし……とにかく! あたしが何に拘ってるか分かんないのよ、役作りできないに決まってんでしょ。どうすんのよ」

ドースンノヨト、イワレマシテモ……ドーニカナルカト……。

「しかもあたし、今日もシフト入ってんのよ! すぐ出なきゃなんないの。職場まで徒歩30秒という設定にした件で感謝してると思ってんの? ちょっと忙しいとすぐ通用口からチーフに呼ばれんの。勘弁してよ……」

言い捨てて大股に出勤なさいました。食堂の窓から見える通りの向こうの建物が彼女の職場、地元の居酒屋兼飯屋です。済まないね、苦労させて。熱い涙が頬を伝います。

「……で、だ」

……いよいよ来ます。四十男さん。お手柔らかに。

「……おまえの代わりに異界で万物に毒づいてばかりなのは……まあいい。不死属性の2人をさしおいて、撮影でもプライベートでも転生者に一番ひどい目に遭わされてんのも、この歳だから納得してやる。音楽や芸術の固有名詞をもじっただけの似非サブカル的台詞だらけなのは……諦めよう」

ハー、ゴカンダイサニ、カンシャイタシマスデス。

「……最大の問題は、だ。……何だよ25年前の大戦ってよ! 俺が若い頃そこで何やったんだよ! または何もやってないのかよ! 畳めもしねえデカすぎる風呂敷広げやがって……スラップスティックに戦後批評と現代時評なんて入れんな! 辻褄合わせんの俺だぞ? おまえは何もしてねえじゃないか!」

ハイ、ハイ。デスカラ、ゴシンロウヲ、オナグサメシヨウト、30話カラ……アノカタタチヲ、オヨビシテルジャ、ナイデスカ……。

四十男さんは頭を抱え呻きました。

「……あー!!……なんてことしやがったんだ。もうここで止めてくれ。俺のキャパは2人と撮影所のバカ共で飽和してんだよ、その上あいつらまで……」

唸りがピタと止まりました。悪相がワタシを睨みます。純粋な憎悪。や、やる気でしょうか。大男さんは空気の読める方です。食卓と椅子を片づけました。

「じゃボクも行ってくる。納品だけだから、帰り早いよ」

彼の職場は徒歩二十分ほど、石切場近くの石工の親方の店、文句ひとつ言わず無遅刻無欠勤で通ってくれてます。行ってらっしゃい、気をつけて。

ア、アノ。ボウリョクハ、ナニモ、ウミマセンヨ?

「黙れ。頭からの出血を抑えるために、首を革紐で絞め上げて数時間放置させた人間の言う台詞か。なぜ俺からせめて痛覚を取り除かなかった。来い」

アー! 四十男さんの部屋は食堂の真向かいです。ワタシの自室より僅かにマシな程度の整頓具合なんですが……あ、いいな、あの楽器。机の上には雑用紙。紙の質は悪そうですね。……え?

ア、ワカリマシタ。ワタシガココデ、ミナサンノモノガタリニ、ヘンコウヲクワエル……ソレデス! リッパナめたふぃくしょんジャナイデスカ。

「これを持て」

……はー、シュロ箒ですか。懐かしいなー。

「……あいつらが来るまでに掃除しとけ。叱られるのは俺なんだ」

……ワッカリマシタ。コレモめたッポイデスネ。アリデス。

「俺も撮影所の下働きだ。戸締りして夕方までに出てけ」

こう言い残し、四十男さんもセカセカとした足取りでお出かけになりました。取り残された私は箒を投げ捨て、どうしようかしらと思案中。あ、ここで読者からの意見を募集すれば更にメタフィクションだと気づく。少しゴロ寝して海路の日和を待つことにしよーっと。某サイトに20話以上一気にアップし眼も疲れた。捻じれっぱなしのプロット修正、始めると余計捻じれてしまう。あ、この世界にも古道具屋を配置したはず、古書を積んだ一隅もあったよな……よし、ちょっと覗いて参考にしよう。いってきまーす。






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