「風の又三郎 1941」#2-9
- カテゴリ:日記
- 2017/04/18 21:21:18
和夫を探しに山に入った哲也と清は、雨を避けるために斜面にある窪みに身を隠していた。雷鳴が鳴り響く度に二人は肩をすくめた。大木の下を避けたのは、落雷の危険を避けるためなのだが、吹き込む雨に体温を奪われていく。哲也より小さい清の方が先に震え始めた。震える清の背中に哲也は自分の背を充てた。
「清、二人でおしくらまんじゅうや」
「うん」
互いに力を入れて押し合った。少し温まったが、いつまでもこうしていられない。和夫は今頃どうしているのやら。ともかく、これでは和夫の捜索どころでは無い。哲也は雨が止むまで留まるか、それとも走って帰るか迷っていた。もしかしたら、和夫は既に家に帰っているかもしれない。とんだかくれんぼだ。和夫が出て来るまで待っていれば良かったのか。
「走って帰るか」
哲也の言葉に清の動きが止まった。
「あかん」
哲也は清の体が沈んで行くのを感じた。同時に哲也の体が仰向けに倒れ始めた。
「うわあ」
二人は砂崩しの棒のように倒れた。哲也は足に力を入れて止まろうとしたが、急な滑り台を降りるように滑落した。
「清、大丈夫か」
「うん」
二人は互いの顔がやっと分かるほどの薄暗い穴の底に居た。足下に土と木の根を感じる。落ちてきた穴の淵まで3mは有りそうだ。完全な垂直ではないにしろ、かなり急な斜面だ。哲也は急こう配の斜面を這い上がろうとして土を掴んだ。次に足を斜面に付けたが、力を入れると崩れてしまう。何度か試みたが失敗した。
「清、おまえ上がれ。俺が押し上げる」
哲也は斜面に背を向け、手のひらを上に向けて腹の前で指を組んだ。清は哲也の手に足をかけた。
「上げるぞ」
「うん」
哲也が清の体を持ち上げると同時に清は体を伸ばした。何とか穴の淵に手が届いたが、手掛かりになるようなものが無い。雨で軟らかくなった土は掴んでも崩れてしまう。
「き、清。上がれそうか」
「あかん。無理や」
哲也は清を一旦下した。哲也は斜面に背を付けたまま打開策を考えた。清はしゃがんで上を見つめた。穴の構造は蓋が付いたすり鉢のような形をしている。二人が落ちたのは、蓋の隅に開いた狭い空間だった。清は周囲の壁を手で探った。土の臭いに混じって焼けたような臭いがする。
「何やろう。この臭い」
哲也も感じていたようだ。
「これは何か焼けたような。うん、火薬やな」
「何でこんなとこに火薬が」
「わからん」