Nicotto Town


金田正太郎


「風の又三郎 1941」#2-9


 和夫を探しに山に入った哲也と清は、雨を避けるために斜面にある窪みに身を隠していた。雷鳴が鳴り響く度に二人は肩をすくめた。大木の下を避けたのは、落雷の危険を避けるためなのだが、吹き込む雨に体温を奪われていく。哲也より小さい清の方が先に震え始めた。震える清の背中に哲也は自分の背を充てた。

「清、二人でおしくらまんじゅうや」

「うん」

 互いに力を入れて押し合った。少し温まったが、いつまでもこうしていられない。和夫は今頃どうしているのやら。ともかく、これでは和夫の捜索どころでは無い。哲也は雨が止むまで留まるか、それとも走って帰るか迷っていた。もしかしたら、和夫は既に家に帰っているかもしれない。とんだかくれんぼだ。和夫が出て来るまで待っていれば良かったのか。

「走って帰るか」

 哲也の言葉に清の動きが止まった。

「あかん」

哲也は清の体が沈んで行くのを感じた。同時に哲也の体が仰向けに倒れ始めた。

「うわあ」

 二人は砂崩しの棒のように倒れた。哲也は足に力を入れて止まろうとしたが、急な滑り台を降りるように滑落した。

「清、大丈夫か」

「うん」

 二人は互いの顔がやっと分かるほどの薄暗い穴の底に居た。足下に土と木の根を感じる。落ちてきた穴の淵まで3mは有りそうだ。完全な垂直ではないにしろ、かなり急な斜面だ。哲也は急こう配の斜面を這い上がろうとして土を掴んだ。次に足を斜面に付けたが、力を入れると崩れてしまう。何度か試みたが失敗した。

「清、おまえ上がれ。俺が押し上げる」

 哲也は斜面に背を向け、手のひらを上に向けて腹の前で指を組んだ。清は哲也の手に足をかけた。

「上げるぞ」

「うん」

 哲也が清の体を持ち上げると同時に清は体を伸ばした。何とか穴の淵に手が届いたが、手掛かりになるようなものが無い。雨で軟らかくなった土は掴んでも崩れてしまう。

「き、清。上がれそうか」

「あかん。無理や」

 哲也は清を一旦下した。哲也は斜面に背を付けたまま打開策を考えた。清はしゃがんで上を見つめた。穴の構造は蓋が付いたすり鉢のような形をしている。二人が落ちたのは、蓋の隅に開いた狭い空間だった。清は周囲の壁を手で探った。土の臭いに混じって焼けたような臭いがする。

「何やろう。この臭い」

 哲也も感じていたようだ。

「これは何か焼けたような。うん、火薬やな」

「何でこんなとこに火薬が」

「わからん」

 





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