Nicotto Town



ロックアイシストとしての誇り


若い頃の喫茶店勤めが決定打となり、私は真正のロックアイシスト。
全日本ロックアイス製造業者互助会南関東支部あたりから金一封貰いたい。
ロックアイス一年分でもいいや。でもどこに保存しようかしら。

冷たい飲み物は全て邪道、氷を入れるなんて論外であるという方が多い。
高級喫茶店で生ジュースを頼むと、果汁だけを入れたグラスを、
クラッシュアイスを詰めた一回り大きい器に入れて供するという話もある。

グラスと液体とロックアイスの奏でる音のハーモニーを無視した暴挙である。
グラスを持った時に涼やかに鳴る鈴の音色、これ無くして冷たい飲み物はあり得ん。
金属器でも構わん。陶器で供する店は少々感心しない。反省しなさい。

自宅にロックアイスを常備するのがロックアイシストへの第一歩である。
冷蔵庫備え付けの製氷器の氷でいいじゃないかという奴がいる。タワケ者である。
たかが氷に数百円、バカじゃないかという輩がいる。氷室に葬りたいものである。

毎日最低一袋は買っていると語ると絶句する門外漢が巷には溢れている。
ブランドにも拘るのかと尋ねるので、各コンビニの商品の差を詳細に説く。
用途に応じて使い分けるのが重要だと説教する。みな背を向け立ち去る。

根っからの関東者なので味の濃い料理が定番、そのため水分補給は必須である。
ハマの人間ではあるが水道水を直に飲むなどという愚挙は犯さない。
ガラスポットに入れ冷蔵庫で冷やし、更に古い魔法瓶に注ぎ氷をぶちこむ。

冷たい水はキンキンに冷えておらねばならぬ。春夏秋冬常備している。
この冷たさを維持すると同時にハマの水に香気を添えるのがロックアイスである。
魔法瓶の口を通る小ぶりのロックアイスはL社のコンビニのものが最適である。

もちろんグラスにもロックアイスが入っておらねばならん。紳士の嗜みである。
水だけが注がれたグラスの間抜けな風情、怠惰な姿は許し難いのである。
冷えたグラスの周囲は水滴で彩られていなければならぬ。原初の美である。

氷を齧るのは欲求不満の証拠であるという奴がいた。バカモノめ。
飲み物を飲み終えたあと、ロックアイスを味わわないで何の人生ぞ。
敢然と齧るのである。舌で転がし柔らかい甘味を堪能し、頃合いを見てガリリ。

つけ麺文化が浸透している。麺が温かい「つけ麺」って何を考えておるのだ。
大量の氷でキリリと冷やした、一片の曇りなき清冽な姿こそ麺ではないか。
蕎麦、冷麦、素麺。ロックアイスで冷やして人肌の汁で喰う。和の心である。

ペットボトルの水に百数十円払って痛痒も感じぬ有象無象が、
ロックアイシストを浪費家と罵るのは片腹痛いものである。
ロックアイシストの精神は氷片の如く鋭く研ぎ澄まされた刃なのである。

……あー疲れた。ロックを愛するロックアイシストは常に逆上しております。
鬱勃たるパトスの迸り、これを適温に維持してくれるロックアイス。
冷徹なるロゴスの神に見放されているためかもしれませぬ。氷の熱情。




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