エーストーンとローランド
- カテゴリ:音楽
- 2017/04/03 08:43:10
梯郁太郎氏はローランド創業者にしてMIDI普及に尽力した功労者です。
今朝、訃報を知りました。八十七歳での大往生、お疲れ様でした。
昭和ヒトケタ生まれの音楽/電気マニアとしての側面が素敵な方でした。
昭和ヒトケタの男性って、ラジオや腕時計に興味を持つ事が多い。
カメラもありますね。無線・精密機器というのは現代のITの先駆けです。
鉱石検波器、機械式腕時計、ライカとコンタックス……爺世代のツボです。
梯氏もラジオ屋、時計修理を経て電子楽器の世界に飛び込んでいる。
海外製の本物のオルガンの音色に驚嘆したことがその後の人生を決めたようです。
技術屋としての側面もあるけど、趣味人としての商品開発が面白い。
ローランドの前身は、カケハシ無線から発展した『エース電子』です。
ACE TONEというブランドで各種の電子楽器を民生用に供給してました。
私も随分お世話になったが、エーストーンには他者と大きな違いがあった。
アナログ黎明期から、自動演奏というものへの志向が感じられたのです。
たとえばドラムマシンの原始的先祖であるリズムボックスという機械がある。
エーストーンのギターアンプには、これを内蔵したものが非常に多かった。
同時に真空管からソリッドステートへの切り替えにも積極的だった。
同価格で比較すると、他社製品よりも操作部が多く、お得な印象がある。
ただ音色が独特(というより非主流)だったので、好まない人も多かった。
ローランドの各種コンセプトにも梯氏の功績が大きいと思います。
海外製や真空管アンプ全盛の時代に、ソリッドステートを大幅に取り入れた。
そこで生まれた新しい音は現代一般化しています。3つ紹介しましょう。
まずはコーラスというエフェクト。BBDという遅延素子を使って、
原音より15ms程度遅れた音を混ぜて出力すると、爽やかな響きになる。
フエイズシフターの泥臭さ、フランジャーの過激さとは一線を画す音。
このエフェクトを内蔵した2チャンネルのギターアンプが名器JC120.
トランジスタのギターアンプを使うなんてあり得なかった時代のことです。
私も初期は違和感を覚え敬遠してました。現在はかなり好きです。
このアンプの特徴はオーディオ的なクリアさとハイファイ感でしょう。
真空管アンプ特有の濁りやふくよかさと対極にある音色は、
テクノやニューウェイブという新しい音楽の誕生にも貢献したのです。
さらにギター弾きの必需品『歪み』の定番、OD-1というエフェクター。
真空管アンプを大出力で鳴らした音をIC回路で模倣したものです。
これも現代エレキギターの音色を決定した偉大な発明品です。
自動化と電子楽器にも積極的でした。アナログシンセの開発や、
各種アナログ音源を自動演奏するための機器を開発し供給した。
リズムボックスは音源とシーケンサーに分かれ、それが黎明期PCとリンク。
複数のキーボードやドラムマシンを自動演奏するための規格を作り、
これを各社共通のものにすることを考え、MIDI誕生に繋がるわけです。
開発者も凄いけど、業界をまとめあげた梯氏の功績は本当に偉大です。
ローランドの開発した技術が使われている名盤は枚挙に暇ありません。
ヤマハ、コルグ等と共に日本が誇るべき電子楽器製造メーカーです。
梯氏のインタビューが読める本は少ないけど、どれも面白い話ばかりです。
ローランドは万人向け、ユーザーフレンドリーな機種ばかり作ります。
そこが物足りない部分でもあるのですが、いつのまにか使ってしまう。
私の器材もローランドが多い。無難に安定した音なんですよ。
ただ私が使ってるのは、80年代前後のアナログのものが中心です。
ソリッドステートやアナログICを用いた回路、これに独特の温かみがある。
中庸をいく音色創りというのかな、これって日本的かもしれません。
戦前生まれの技術者が作ってくれた新しい音楽の楽しみ方、
これは今後も続いていくのです。どんな音が生まれるのであろう。
新しい音色が新しい音楽を生む。電子音楽の父の一人よ、安らかに。
初めまして。私みたいに60年代後半からギター弾いてる爺は、みんなこうした情報を知ってます。
情報の少ない時代、直接店まで足を運んだり、購入者を見つけて試させてもらったりが多かったです。
回路の改造や自作もやるのですが、これも年寄り世代の共通点でしょう。
シンコー等から出版されているムックに、エフェクターや日本ギター特集に特化したものがあります。
アレ読むと、黎明期の日本の楽器屋と技術屋の話が満載なので面白いかもしれません。
ただ手に入れようとすると……不当なバカ高い価格をつけることが多いので、お気をつけて。