またも一冊の古本で楽しむ。
- カテゴリ:小説/詩
- 2017/03/20 16:23:47
百円均一コーナーで岩波の『あかい花』というロシアの短編集を見つけました。
「現実と良心の相克に力尽き狂死…」という惹句に食いつき購入決定。
19世紀後半に露土戦争に従軍したガルシンという作家、知らなかった。
狂気と正気の描写がよい。ワイルドや、レム『枯草熱』終盤を思い出します。
解説によると、チェーホフ等の癲狂院小説(凄いジャンルだ)の嚆矢だとか。
調べたら太宰治が好きだったとの説を発見、納得できるものがありますね。
神西清という訳者で、昭和十二年の訳を現代仮名遣いに直した新版です。
いいんですよね、戦前の仏文露文出身者の、古典教養を前提として崩した訳。
見覚えがあるので調べた。戦後『石の花』を児童文学として訳したとある。
コレを読んだ記憶がある。ソビエト製の天然色映画も戦後流行ったはずだ。
人脈に三度驚く。竹山道雄に堀辰雄、岸田國士、三島……インテリだ。
弟子や後輩を調べれば、脈々と続く現代の翻訳家に繋がる。学問の伝承だなー。
ガレリンの作風には、やはりロシアの血と土と宿命が重く感じられました。
トルストイやドストエフスキーに直接繋げてもよいし、ソルジェニーツィンにも、
ストルガツキー兄弟やソローキンに共通項を見出すのも楽しい。
この一冊が目に留まったそもそもの理由が『あかい花』という字面でした。
おそらく潜在下で『石の花』を想起していたのでしょう。
脳内で起きるこうした繋がりを解きほぐすのは無上の喜びです。
『枯草熱』は国内刊行の年、評価が真っ二つに割れた、というより不評だった作品でして、
確かにレムの醍醐味から大きく離れてる作品です。彼の作品に頻出する学者の対話や、
意外とメランコリックな日常描写(『星からの帰還』等)が好きな方向けかもしれません。
堀辰雄についての本もよかったです。
レムの『枯草熱』も読みたいですね……。近所の図書館にあったかしら。