Nicotto Town


金田正太郎


「風の又三郎 1941」#2-4


 グライダーは運動場に落下する直前に上昇した。そして、風に乗って高く舞い上がった。グライダーは降下と上昇を繰り返しながら校門の前に広がる収穫が終わった畑に落ちていた。

「飛びすぎた」

 三郎の声だった。いつの間にか三郎が運動場に降りていた。

「とってくる」

 道子が畑に走り出した。それを二年生の和夫が抜き去った。他の男子もグライダーが飛ぶのを見ていたようだ。和夫に抜かれた道子が泣き出した。照子は道子をなだめる為に彼女の肩を抱いた。三郎も道子の傍に寄った。

「あれは、もう壊れているな」

 三郎の言うとおり、畑に落ちたグライダーは胴体が折れていた。和夫は壊れたグライダーを投げた。

「あかん、もう飛ばへんな」

 和夫は壊れたグライダーを拾って三郎に返して、ビー玉の続きをやるべく走り去った。それを受け取った三郎が言った。

「僕、もう帰るよ」

 道子が三郎を物ほしげに見上げていた。道子の代わりに照子が言った。

「飛行機を飛ばしたかったみたい」

「そうか、それは残念だね」

 頷く道子に三郎が続けた。

「それなら家にあるのを飛ばそう。明日、持って来るよ」

「うん」

 道子は満面の笑みを浮かべた。

 

 三郎の背中を哲也がじっと見ていた。

「稔」

「なんや兄ちゃん」

「和夫と一緒に先に帰ってとれ」

「ええ、何でや」

「ええから帰れ」

「まだ、ビーだんやって・・・」

 哲也が稔を睨んでいた。ただならぬ気配に稔はブツブツ言いながらも和夫の手を引いて学校から出た。

「清、三郎が屋根から降りて来るところを見たか」

「見てない」

「あんなに早く降りられるか」

「そやな。難しいな」

「やってみるか」

 哲也は清を連れて校舎の裏に行った。足がかりになるような物は窓と庇。どう見ても登れそうにない。二人は顔を見合わせた。

「あいつ、又三郎か」

「やっぱり」





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