「風の又三郎 1941」#2-3
- カテゴリ:日記
- 2017/03/13 23:45:43
翌日、校庭の片隅に二台に自転車が有った。本校から来た二人の教師が乗って来たものだ。今日から通常の授業が始まる。照子は五六年生用の教室に入った。三郎が窓際の席に座っていた。
「おはようさん」
「おはよう」
少し遅れて六年生の哲也も到着した。哲也は挨拶もせずに自分の席に着いて教科書を開いた。授業は国語・算数・国史と続いて工作の時間。五年生の工作は滑空機模型、つまりグライダーの模型を作ることになっていた。工作が苦手な照子は説明書を見ながら悪戦苦闘していたが、三郎は厚紙から翼を切り取る黙々と作業をこなしていた。六年生の哲也は、もう少し高度な模型を作っていた。五年生の教材はキビガラと厚紙に対し、六年生は胴体の細木をリブで繋げ薄紙を貼る。六年生の教材は実物に近いため全行程8時間を要する。哲也は暫く工作の時間を飛行機作りだけになった。
五年生の三郎と照子が作っているグライダーは2時間で出来上がる予定だが、三郎は⒈時間で作ってしまった。照子のほうは再来週の工作まで持ち越しになりそうだ。
昼休みを告げるベルが鳴り、他の生徒たちが五六年生の教室にお揃いの弁当箱を持ってやって来た。皆の弁当箱は村から配布された物で、横長で深いアルマイト処理されたアルミ製であった。哲也はそれを二段に重ねていた。三郎の弁当箱は平たくて浅いブック型だった。一年生の道子は見慣れない形の弁当箱に興味津々だった。道子が蓋の文字を指さした。
「これ、なんて読むの」
「海軍省だよ」
「この絵、見たことある」
「これは錨の印だよ。海軍で働く叔父からもらった」
海軍という言葉に清が反応したが、哲也の顔色を窺って自分の弁当箱に視線を落とした。何だか気まずい昼食なってしまった。何故、哲也が三郎と話をしないのか。その時は誰も分からなかった。
その日の放課後、男子は夏のなごりが残る校庭でビー玉を始めた。照子は道子を連れて帰るために一二年生の教室に向かった。
「みっちゃん、帰ろか」
「うん」
道子を連れて校舎から出た照子は、男子の中に三郎が居ないことに気付いた。
「あっ」
道子が校舎の屋根を指さした。屋根の一番上に三郎が空を見上げて立っていた。手にグライダーを持っている。屋根からグライダーを飛ばすのだろうか。照子は空に向かってグライダーを投げる三郎の姿を想像した。だが、翼を調整した三郎が投げたのは、上空では無く下に向かって腕を振った。
「えっ」