Nicotto Town


金田正太郎


「風の又三郎 1941」#1-3


 ともかく、四人は東岳に登った。久しぶりの山登りに照子は、途中で何度も座った。

「そやから言うたやろ」

 哲也が座り込む照子を睨んでいた。肩で息をする照子は、立ち上がりながら答えた。

「心配ないし。頂上まであとちょっとや。先に行って」

「ふむ」

 哲也は弟の稔を呼んだ。

「稔、お前は照子といっしょに後から来い」

「ええで」

 稔は素直に従った。三年生の稔が役に立つと思わないが、それでも一人は良いか。照子は先を行く哲也と清の背中を見ながら踏み出した。稔は照子の後を歩いている。

「あ、ひこうき」

 稔の声に振り返った照子は、

「え、どこ」

 稔は空を指さした。その方向、上空を双発機が飛んでいた。双発機は琵琶湖上空を旋回しているようだ。エンジン音が聞こえないほど高い。

「山の上から見てみよ」

 突然、稔が坂道を駆けあがった。

「みのる~ちょっと待ち」

 あっという間に稔の姿は消え、照子の声は山の木々に吸い込まれた。

「もう」

 照子は稔を追いかけて歩調を早めた。登れば登るほど勾配がきつくなっていく。自分の呼吸音が内耳に響く。もうダメだと思った時、道が開けた。連なる山の向こうに青い琵琶湖の水面が見えた。頂上に着いた安心感から照子は座り込んだ。先に着いていた三人は、照子のことなど眼中に無いようだ。三人は一心に空を見上げていた。見晴らしの良い頂上に吹く風が心地良い。何度か深呼吸をしたが、まだ息が整わない。荒い息づかいを知られるのは悔しい。しかし、いつまでも座っていれば馬鹿にされる。立ち上がった照子は荒い息を悟られないようにそっと近づいた。哲也が双眼鏡で飛行機を追っていた。哲也が得意げに言った。

「双発の練習機みたいやな」

「僕も見たい」

 稔は哲也が持っている双眼鏡を掴もうと手を伸ばした。

「ちょっと待て、こっちに向かって来る」

「兄ちゃん、見せてぇな」





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