「風の又三郎 1941」#1-2
- カテゴリ:日記
- 2017/02/11 14:19:24
翌日の昼、畑の手伝いをしていた照子は、六年生の哲也の声を耳にした。哲也の弟で三年生の稔もいるようだ。あぜ道を大声で話しながら歩く哲也。弟の稔は話を聞いているのかいないのか、気もそぞろに辺りを見回しながら後ろを歩いている。稔がふと立ち止まった。足元の何かを見ている。それに気が付かない哲也と稔の距離が離れて行く。照子は稔に声をかけた。
「みのる~」
稔は気にならないのか、聞こえないのか、足元をじっと見ていた。そして、何かを拾った。
「な~んや、石か」
稔は手に取った丸く平坦な石を捨てた。照子は稔の傍に寄った。
「何を拾ったの」
「うん、なんやわからんけど、真ん丸やから、何かなと思うてん」
「そうか、石やったのやね。それより、兄ちゃんに置いて行かれるで」
「ああ、兄ちゃん、待ってえな」
そう言って稔は走って哲也を追いかけた。走り去る稔を追う照子の視線の先には、四年生の清が哲也と話をしていた。清の上着が妙に膨らんでいる。哲也の声が小さい。そういう時は、何か良からぬことを企んでいる。照子は稔の後を追いながら清に言った。
「清、何を隠しているのや」
清は上着で隠していた物を取り出した。それは双眼鏡だった。
「それで何をする気?」
清は黙って哲也を見た。哲也は照子を睨みつけて言った。
「これは実験や。誰もやったことがない実験をする」
「実験って何の」
「東岳から富士山が見えるかどうかや」
照子は噴き出した。
「何、それ。見えるわけないやん」
哲也は一歩照子に近づいた。
「理論上、見えるって。陸軍の飛行師団にいる伯父さんが言うとった」
「ほんまか」
「見える・・・それを確かめに行く」
子供たちのやりとりを見ていた照子の父が声をかけた。
「照子、こっちはもうええさかい」
「うん、ほな行ってくる」
哲也は不服そうに
「ええっ、お前も来るのか。大丈夫か」
照子は哲也の胸を指さして言った。
「あんたらだけやったら、何をしでかすかわからんし」