Nicotto Town


金田正太郎


「風の又三郎 1941」#1-2


 翌日の昼、畑の手伝いをしていた照子は、六年生の哲也の声を耳にした。哲也の弟で三年生の稔もいるようだ。あぜ道を大声で話しながら歩く哲也。弟の稔は話を聞いているのかいないのか、気もそぞろに辺りを見回しながら後ろを歩いている。稔がふと立ち止まった。足元の何かを見ている。それに気が付かない哲也と稔の距離が離れて行く。照子は稔に声をかけた。

「みのる~」

 稔は気にならないのか、聞こえないのか、足元をじっと見ていた。そして、何かを拾った。

「な~んや、石か」

 稔は手に取った丸く平坦な石を捨てた。照子は稔の傍に寄った。

「何を拾ったの」

「うん、なんやわからんけど、真ん丸やから、何かなと思うてん」

「そうか、石やったのやね。それより、兄ちゃんに置いて行かれるで」

「ああ、兄ちゃん、待ってえな」

 そう言って稔は走って哲也を追いかけた。走り去る稔を追う照子の視線の先には、四年生の清が哲也と話をしていた。清の上着が妙に膨らんでいる。哲也の声が小さい。そういう時は、何か良からぬことを企んでいる。照子は稔の後を追いながら清に言った。

「清、何を隠しているのや」

 清は上着で隠していた物を取り出した。それは双眼鏡だった。

「それで何をする気?」

 清は黙って哲也を見た。哲也は照子を睨みつけて言った。

「これは実験や。誰もやったことがない実験をする」

「実験って何の」

「東岳から富士山が見えるかどうかや」

 照子は噴き出した。

「何、それ。見えるわけないやん」

 哲也は一歩照子に近づいた。

「理論上、見えるって。陸軍の飛行師団にいる伯父さんが言うとった」

「ほんまか」

「見える・・・それを確かめに行く」

 

 子供たちのやりとりを見ていた照子の父が声をかけた。

「照子、こっちはもうええさかい」

「うん、ほな行ってくる」

 哲也は不服そうに

「ええっ、お前も来るのか。大丈夫か」

 照子は哲也の胸を指さして言った。

「あんたらだけやったら、何をしでかすかわからんし」





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