Nicotto Town



茶屋爺のことを書く


親不孝通りの入り口近く、百年以上続く間口二間の店を覗き込むと、
茶屋爺はだいたい座っており、こちらに気付くと丁寧に頭を下げる。
祖父母の代から通っている店である。この店以外の茶葉は使ったことがない。

先客がいると私は表で待つ。接客とお喋りで一人15分はかかるのである。
どの客もイイ年齢である。何十年もここに通いお茶っ葉を買っているのだ。
歴史認識ってヤツが大嫌いだが、こういうのは歴史って言ってもよかろう。

あちこち体にガタがきている。月末から入院するという。
詳しいことは息子が聞いたからそっちに聞いてくれという。息子は苦笑い。
どこの家にもある高齢者の入院騒ぎである。息子が必死に説得したのだろう。

年末にもらった急須の話をする。案の定もう一つ寄越そうとする。
数千円の品ではなかろうか。上得意に配ればよいではないか。でも聞かない。
爺の指示で息子が用意する。申し訳ない気分でいっぱいになる。

次に渡せるか分からないからさ、と言われてグッと詰まる。
入院も不安だろうし、万が一もあるだろうとの思いなのかもしれん。
悩んだ末、息子には悪いが頭を下げて頂いていくことにする。

茶屋爺に万一のことがあったら、おそらく緑茶を飲むのを止めるだろう。
同じ店で同じものを売っているからそれを買えば良い、というのは若人だ。
そうではないのだ。茶屋爺の売る茶が、私と家族の茶なのである。

次に買いに来るのは春の彼岸の頃になるであろう。
茶屋爺よ、彼岸には行かないで、もう少し頑張ってくれ。
願わくは、体の不調に文句を言いながら皺だらけの手で茶を測ってくれ。

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2017/02/11 08:03
>ラムセス2世さん

代替わりしても続けてほしいという気持ちもあるのですが、なにせ時勢がこうですから……。
難しかろうと思います。親しい親族が身罷れば足が遠のく、それと似た状況です。
緑茶を飲む風習も廃れていくのであろうと思うのです。
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2017/02/10 11:45
茶屋爺さん、お客さん一人一人をとても大切になさってるですね。
できることならご子息も同じようになっていてもらいたいものです。



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