Nicotto Town



「線路は続くよ」

# 陽だまりの駅



「はい。お弁当とお酒です」

窓の向こうから、車内販売員が品物を差し出す

「ありがとう。たまにはこんなのも良いね」


山間の、小さな陽だまりのような駅

販売員さんの小さな遊び心でしょうか

汽車から降り、ホームでワゴンを押して販売中です


「あ。懐かしいものが置いてあるね」

ワゴンの片隅で、大きな瓶に入った色とりどりのあめ玉を見つけました

「ちょっと前の駅で仕入れたんですよ。お一ついかがですか」

「う~ん。今はお酒を飲んでるからあとにするわ」

「売り切れてしまうかもしれませんよ」

「人気あるの?」

「実は・・・全く売れてません」

「あはは」


そんな光景を、ホームの向こうの雑木林から見つめる、四つの目がありました。


「見た?」

「うん。見た」

「あの瓶の中の赤い球は、お日様の実、よね」

「きっとそうよ。夏の間に付けた実で、重くなったお日様が高く飛べなくなったから、人間達がとったのだわ」

「と言うことは」

「あの実が手に入れば、暖かくなれるのかな」

「でも、どうやって?人間のものを手に入れるには、お金というものが必要らしいわ。わたし達は持っていないし」

「ねえ見て。あそこにお巡りさんがいるわ。人間達は、困った時はお巡りさんに相談するらしいわよ」

「でも、お巡りさんて、鉄砲を持っているのでしょう?見つかったら、襟巻きにされてしまうわ。あなたも、狸汁にされてしまうかもしれなくてよ」

「狸汁は嫌ね」

「わたしも、襟巻きになんてなりたくないわ」


しばし頭を悩ます二匹ですが、やがて名案が浮かんだようです。


「そうよ。人間に化ければ良いんだわ。わたし達、化けるのは得意じゃない」

「うまくいくかしら」

「大丈夫。わたし達よりうまく化けられるものなんて、おばけくらいなものよ」

「そうね。やってみましょうか」

「やってみましょう」

頭に葉っぱをのせて・・・

「こんこ~ん」

「ぽんぽこぽ~ん」

たちまち二匹は、可愛い女の子の姿になると、駅舎に向かいました

お尻でシッポが揺れているのは、ご愛敬です


「あの、お巡りさん」

「お聞きしたいことがあるのですけれど」

二人は、改札にいる駅員さんに声をかけます

どうやら、駅員さんとお巡りさんを間違えているようです」

「僕は、お巡りさんじゃなくて、駅員だよ。でも大丈夫。駅で困ったことは駅員に聞けば、万事解決さ」

「わたし達、お金が欲しいのですけれど」

「どうしたらよいのでしょう」

「お金?何に使うんだい?」


駅員さんは思いました

(変なことを聞く子供達だな。いや、よく見たらシッポがあるぞ。僕を化かそうというのかな。でも、悪い子達には見えないよな)

「お日様の実が欲しいんです」

「お日様の実?」

「あの瓶に入った赤くてキラキラしているやつです」

二人は、駅のホームを指さします

ホームでは、車内販売員が、ワゴンを押していました

(そうか、赤いあめ玉が欲しいのだな。そのくらいなら、買ってあげるのは訳ないけれど・・・)


少し考えて、駅員さんはいいました

「じゃあ、僕の仕事を手伝ってくれるかい?ちょうど汽車に乗る人が来たようだから、改札をして欲しいんだ」

「改札・・・ですか?」

「どうやったら良いのでしょう」

「なあに、簡単さ。切符を受け取って、この鋏でチョキンとするだけさ。そうだ、帽子も被らないとね」


「あら、可愛い駅員さんね」

「え。そうですか?ぽ」

チョッキン

「頑張れ~」

「うーん。もう少し・・・」

チョッキン

大きめの帽子を被り、小さな手で顔を赤くして切符を切る小さな駅員さん

改札を通る人は皆、笑顔で二人を応援します


やがて、改札を通る人はいなくなりました

「ふう、疲れたわ。お仕事って大変なのね」

「駅員さんてすごいのね。尊敬しますわ」

「あはは。それほどでもないよ。でもありがとう」

二人に見つめられて、駅員さんは照れ笑いです


RRRRR・・・・

ホームに発車のベルが響き渡る

車内販売員が車内に戻り、汽車がホームを出る

「あめ玉、売れましたよ。小さなお客様が二人と駅員さんが、赤い色のを一つずつ、かって行かれました」

通りかかった車内販売員が声をかける

「うん、見てたよ。シッポを生やした小さな駅員さん、だね」


汽車は走り続ける

陽だまりの駅をあとにして

次は、どんな景色が待っているのだろう


その頃、小さな駅では・・・


「でも、このお日様の実、どうやって使うのかしら」

「持っていても、暖かくならいですわね」

あめ玉を手に持ち、眺める二人に駅員さんが言います

「こうするのさ」

ぽいっ、とあめ玉を口に入れる駅員さん

「え」

「ええっ」

驚いた顔で駅員さんを見つめる二人

駅員さんの顔がほころぶのを見て、うなづきあい、ぽいっとあめ玉を口に放り込みます


「あま~い」

「おいし~い」

みるみる顔がほころぶ二人

「お口の中にお日様がいるみたい」

「ぽかぽかでほっぺが溶けそうですわ」

「それは良かった。仕事を手伝って貰った甲斐があったよ。もうしばらく汽車は来ないから、そこの陽だまりのベンチでゆっくりお食べ」

「駅員さんも一緒に行きましょう」

「行きましょう」

二人に手を引かれる駅員さん

「そうだね。僕も少し休憩しようかな」

「ねえ、また改札してもいい?」

「楽しかったですわ」

「ああ良いとも。いつでもおいで」




つづく























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2017/01/17 10:05
元々は、独立したお話として作ったものです
このシリーズに入れたことで、少し展開が強引になってしまいました
反省です

お話の中で書き忘れましたが
二人の名前は
「ポン子」と「コン美」だったりします(笑

(#^.^#)



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