「線路は続くよ」
- カテゴリ:30代以上
- 2017/01/17 09:57:15
# 陽だまりの駅
「はい。お弁当とお酒です」
窓の向こうから、車内販売員が品物を差し出す
「ありがとう。たまにはこんなのも良いね」
山間の、小さな陽だまりのような駅
販売員さんの小さな遊び心でしょうか
汽車から降り、ホームでワゴンを押して販売中です
「あ。懐かしいものが置いてあるね」
ワゴンの片隅で、大きな瓶に入った色とりどりのあめ玉を見つけました
「ちょっと前の駅で仕入れたんですよ。お一ついかがですか」
「う~ん。今はお酒を飲んでるからあとにするわ」
「売り切れてしまうかもしれませんよ」
「人気あるの?」
「実は・・・全く売れてません」
「あはは」
そんな光景を、ホームの向こうの雑木林から見つめる、四つの目がありました。
「見た?」
「うん。見た」
「あの瓶の中の赤い球は、お日様の実、よね」
「きっとそうよ。夏の間に付けた実で、重くなったお日様が高く飛べなくなったから、人間達がとったのだわ」
「と言うことは」
「あの実が手に入れば、暖かくなれるのかな」
「でも、どうやって?人間のものを手に入れるには、お金というものが必要らしいわ。わたし達は持っていないし」
「ねえ見て。あそこにお巡りさんがいるわ。人間達は、困った時はお巡りさんに相談するらしいわよ」
「でも、お巡りさんて、鉄砲を持っているのでしょう?見つかったら、襟巻きにされてしまうわ。あなたも、狸汁にされてしまうかもしれなくてよ」
「狸汁は嫌ね」
「わたしも、襟巻きになんてなりたくないわ」
しばし頭を悩ます二匹ですが、やがて名案が浮かんだようです。
「そうよ。人間に化ければ良いんだわ。わたし達、化けるのは得意じゃない」
「うまくいくかしら」
「大丈夫。わたし達よりうまく化けられるものなんて、おばけくらいなものよ」
「そうね。やってみましょうか」
「やってみましょう」
頭に葉っぱをのせて・・・
「こんこ~ん」
「ぽんぽこぽ~ん」
たちまち二匹は、可愛い女の子の姿になると、駅舎に向かいました
お尻でシッポが揺れているのは、ご愛敬です
「あの、お巡りさん」
「お聞きしたいことがあるのですけれど」
二人は、改札にいる駅員さんに声をかけます
どうやら、駅員さんとお巡りさんを間違えているようです」
「僕は、お巡りさんじゃなくて、駅員だよ。でも大丈夫。駅で困ったことは駅員に聞けば、万事解決さ」
「わたし達、お金が欲しいのですけれど」
「どうしたらよいのでしょう」
「お金?何に使うんだい?」
駅員さんは思いました
(変なことを聞く子供達だな。いや、よく見たらシッポがあるぞ。僕を化かそうというのかな。でも、悪い子達には見えないよな)
「お日様の実が欲しいんです」
「お日様の実?」
「あの瓶に入った赤くてキラキラしているやつです」
二人は、駅のホームを指さします
ホームでは、車内販売員が、ワゴンを押していました
(そうか、赤いあめ玉が欲しいのだな。そのくらいなら、買ってあげるのは訳ないけれど・・・)
少し考えて、駅員さんはいいました
「じゃあ、僕の仕事を手伝ってくれるかい?ちょうど汽車に乗る人が来たようだから、改札をして欲しいんだ」
「改札・・・ですか?」
「どうやったら良いのでしょう」
「なあに、簡単さ。切符を受け取って、この鋏でチョキンとするだけさ。そうだ、帽子も被らないとね」
「あら、可愛い駅員さんね」
「え。そうですか?ぽ」
チョッキン
「頑張れ~」
「うーん。もう少し・・・」
チョッキン
大きめの帽子を被り、小さな手で顔を赤くして切符を切る小さな駅員さん
改札を通る人は皆、笑顔で二人を応援します
やがて、改札を通る人はいなくなりました
「ふう、疲れたわ。お仕事って大変なのね」
「駅員さんてすごいのね。尊敬しますわ」
「あはは。それほどでもないよ。でもありがとう」
二人に見つめられて、駅員さんは照れ笑いです
RRRRR・・・・
ホームに発車のベルが響き渡る
車内販売員が車内に戻り、汽車がホームを出る
「あめ玉、売れましたよ。小さなお客様が二人と駅員さんが、赤い色のを一つずつ、かって行かれました」
通りかかった車内販売員が声をかける
「うん、見てたよ。シッポを生やした小さな駅員さん、だね」
汽車は走り続ける
陽だまりの駅をあとにして
次は、どんな景色が待っているのだろう
その頃、小さな駅では・・・
「でも、このお日様の実、どうやって使うのかしら」
「持っていても、暖かくならいですわね」
あめ玉を手に持ち、眺める二人に駅員さんが言います
「こうするのさ」
ぽいっ、とあめ玉を口に入れる駅員さん
「え」
「ええっ」
驚いた顔で駅員さんを見つめる二人
駅員さんの顔がほころぶのを見て、うなづきあい、ぽいっとあめ玉を口に放り込みます
「あま~い」
「おいし~い」
みるみる顔がほころぶ二人
「お口の中にお日様がいるみたい」
「ぽかぽかでほっぺが溶けそうですわ」
「それは良かった。仕事を手伝って貰った甲斐があったよ。もうしばらく汽車は来ないから、そこの陽だまりのベンチでゆっくりお食べ」
「駅員さんも一緒に行きましょう」
「行きましょう」
二人に手を引かれる駅員さん
「そうだね。僕も少し休憩しようかな」
「ねえ、また改札してもいい?」
「楽しかったですわ」
「ああ良いとも。いつでもおいで」
つづく
このシリーズに入れたことで、少し展開が強引になってしまいました
反省です
お話の中で書き忘れましたが
二人の名前は
「ポン子」と「コン美」だったりします(笑
(#^.^#)