Nicotto Town



とおの物語り その10  オレンジの花が咲く時

「猟師のおじいさん止めて
かわいそうだよ」

テラは叫んで
おじいさんの手にしがみついた

足元にはとどめを刺されるはずの
右目を失った黒いカラスが横たわっていた

「この子に免じて今回は許してあげよう」
おじいさんはテラを見つめてそう言った

そして後ろを振り向いた瞬間
消えてしまった

驚くテラ
暫くして足元を見るとカラスも消えていた

「夢を見たんだ」
テラはそう自分に言い聞かせた

テラは小さな田舎町に住む
やんちゃな少年

歳は6歳、両親と3歳上のお姉さんとの
4人暮らしだ

お姉さんのフィオーレは花が大好き
昨日も春に咲く花の種を二人で植えた所です

「雪が融けた春の日差しのなかで
オレンジ色の花が咲くのよ」

楽しそうに笑顔で話すお姉さんを
テラは大好きでした


それから一か月が経った冬の日
テラはフィオーレのベットの脇に座っていました

フィオーレの手を握りしめ
「頑張るんだよ、姉さん」と泣いていました

「春にいっしょにオレンジの花を見るんだからね」
テラは苦しそうに息をしているフィオーレに言いました

フィオーレはもう3週間も熱が下がりません
医者も原因が解らないとさじをなげていました

ふと、テラは何かの気配を感じました
横を見ると知らない人が立っていました

「あなたは誰」テラは恐る恐るたずねました
「お前は私が見えるのか」

闇に響くような声でその男は言いました
そして黒目に赤い瞳でテラをにらむと

恐怖で言葉を失ったテラに言い放ったのです
「わたしは死神だ」

「明日の朝6時に出発だ」
「おまえの姉さんとな・・・」

「そんな
姉さんを助けて」

「お願いだ
姉さんを助けて」

泣きじゃくるテラに
死神は言いました

「ならば取引をしよう
お前の眼をわたしにくれないかい」

「それで姉さんを助けてくれるの
だったら目をあなたにあげます」

翌朝の6時になりました
突然、暗闇がテラを襲いました

「目が見えない」
驚くテラ

一方
「熱が下がってる」

隣の部屋から両親とフィオーレの
喜びの声が聞こえてきました

しかしそれもつかの間
事の真相を知って両親とフィオーレは悲しみました

暗い、寒い灰色の冬が一家を襲いました
目が見えなくなっても明るく振る舞うテラ

この一家に小さな愛の暖かなともし火は
絶えることはありませんでした

長い冬が終わり
雪の間から黒い地面が顔をのぞかせています

そして暖かな風が吹き
力強く植物が芽吹き始めました

春の陽だまりの中
テラが突然叫びました

「花だ
オレンジの花がいっぱい咲いている」

驚く両親とフィオーレ
「見えるのか、花が咲いているのが」

奇跡が起こりました
テラの目が春の景色を追っています

「見える見えるよ
父さん母さんの顔も姉さんも・・・」

その時です
目の前の木に片目のカラスが止まりました

そして驚くかな
人間の言葉を話し始めました

「テラよ私はカラスではない死神じゃ
お前に命を助けられた死神じゃ

わたしは罪をおかし神に命を消されるところだった
あの猟師は神の化身じゃ

まさかお前に再び会うとはな
助けてくれたお返しにお前の姉を助けた

それがお前の心からの頼みだったからだ
しかし事はそう簡単ではない

天から示された道を崩すことになるからだ
もともと無くなったはずのこの命

神に死を持ってお前の望みを叶えるよう懇願することにした
それにはお前の目が必要だった

一度罪をおかした私
神は私の言葉などでは動かない

お前の目だ
お前の姉を助けたいと言う目だ

どこまでも澄んでいて
強い懇願と意思を持ったその目だ

私はお前の目と私の命を持って神にお願いをしに行った
いやしようとした

神は分かっていらした
私の姿を見ると『思っている通りにせよ』とおっしゃった

『ただしこれは簡単なことでは無い
罰としてその目は春までは戻すことはかなわん』とも

この時を私は待っていたのだ
兄妹二人の思い出の花が咲くこの時を」

そう言うとカラスは目の前から
消えてしまった

「テラ!テラ!
なに木とお話をしているの」笑ってフィオーレは言った

カラスはテラにしか見えないようだった
「姉ちゃん花をもっと近くで見ようよ」

オレンジ色の花に向かって駆け出す二人
微笑んでそれを見つめる両親

春のそよ風が
ほのかな花の香りをいっぱいに運んでくれています

おやおや
どこかで見たことのある猟師のおじいさんが

気持ち良さそうに鼻を膨らませ
花の香りを吸い込んでいますよ


なんて
ちょっと長くなりすぎかな

これで「とおの物語」
10編書きましたよ~














アバター
2016/11/09 09:27
いしころ様

とおの物語りご愛読?ありがとうございます^^

こんな感じでまた書いてみようかな
以前からちょこっと書いていますけどね

思い浮かんだらまた書きますね

柿には大昔イガがあったとかも
面白そうです
アバター
2016/11/09 03:43
最後は一番セカンドさんらしいお話になりましたね
オレンジ色の花の奇跡・・オレンジの花は力強い希望の花なのかしら
思いを込めて誰の心にもそっと風に揺れながら咲いていますように・・
とおの物語 ついに完結ですね 楽しませていただきました
ハッピーな気持ちで眠ることができます 
ありがとう~笑顔一杯でおやすみなさい(^^)/
アバター
2016/11/09 02:40
奈柚様

ハッピーに終わらないとね

この日、自分はお休み
カラスが昼前にやたら鳴いていました

で、
なんとなくこの話を考えました

やっぱ
ハッピーが一番です^^
アバター
2016/11/09 01:38
すごい 素晴らしいです!
伏線がまた…上手い!

人の寿命を変えるタブーを書きながら
ちゃんと全方向納まる所に納まって
全員ハッピー♪
いいお話でした(*´ω`*)
アバター
2016/11/09 01:13
夢子様

フィオーレ・・・
名前を文の中に入れておきました^^
アバター
2016/11/09 01:03
夢子様

とおの物語り
とおとお完成しました?

テラはterra イタリア語で地球、大地
お姉さんはフィオーレfiore イタリア語で花

お姉さんは最後まで名前が出てきませんでした
何処かに入れようかな?ん~^^

姉を想うテラの気持ち
命を助けてもらった死神の恩返し?

そもそも死神は死ぬのかな???
全能の神のほうが強いからやられちゃう?

あと二つは案があったのですが
10で〆ですかね^^

アバター
2016/11/08 22:21
とおの物語の完成おめでとうございます。
テラは地球の男性神のことですよね。
ガイアは女性神。
なんか深読みしちゃいました。
姉の名前はガイア。
この物語はテラの無償の愛が死神と神を動かした。
なあんちゃって^^



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