私の王子様 【短編小説】
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/10 16:01:08
私の王子様は、おとぎ話には出てきません。
いつも私の隣で、にっこりと微笑んでくれています。
私の王子様は、白馬には乗りません。
その代わりに、中古で買った、軽自動車で楽しい場所へ連れて行ってくれます。
私の王子様は、お城は持っていません。
優しいお義母さんと、お義父さんが、温かい家で待ってくれています。
私の王子様は、エスコートしてくれません。
とてもシャイで、手を引くのも一苦労です。
私の王子様は、魔法のキスをできません。
ですが、毎朝目覚めのキスで、私を起こしてくれます。
私の王子様は、涙を見せません。
いつも笑って、大丈夫だよ、と囁きます。
私の王子様は、私を抱きしめて離しません。
耳元で、いつも、「ごめんね」と謝り続けます。
私の王子様は、手が氷のように冷たいです。
握り返してもくれません。
私の王子様は、笑ってくれません。
ずっと、眠っているから。
私の王子様は、たくさんの温かい人に見守られ、愛されています。
私はそんな彼が、大好きでした。
彼は私の中で、世界でたった一人の、王子様。
白馬や、大きな城なんてなくていい。
ただ、笑ってくれさえすれば、それでいいのです。
だから、もう一度・・・手を握ってほしいのです。
私の王子様に願いました。
「もう一度、目を覚ましてください。」と。
願いを込めて、最後の口づけを、交わしました。
・・・・・
・・・・・この世に魔法なんて、ありません。わかっています。
でも、この世には、一つ、魔法と呼ばれるべきものがあります。
「見て・・・息が・・・」
「・・・・・ん・・ここ、は・・・」
私の王子様は・・・綺麗な瞳をしています。いつも私を吸い込んで離しませんでした。
「・・・ただいま」
私の王子様は・・・、ようやく、笑ってくれました。
「おかえり・・・」
まだ少し冷たい手を握り、私は王子様に伝えました。
「“奇跡”って・・・本当に、あるんだね・・・」
まるで、魔法のような。
奇跡は、どんな形にでも変形することができます。
私の王子様は・・・それをきっと、持っていたのです。
私の王子様は、おとぎ話には出てきません。
しかし、おとぎ話にはない、最高の力を持っていました──。