Nicotto Town


信じる事から、叶うか叶わないか決まる。


私の王子様 【短編小説】

私の王子様は、おとぎ話には出てきません。


いつも私の隣で、にっこりと微笑んでくれています。

私の王子様は、白馬には乗りません。

その代わりに、中古で買った、軽自動車で楽しい場所へ連れて行ってくれます。

私の王子様は、お城は持っていません。

優しいお義母さんと、お義父さんが、温かい家で待ってくれています。

私の王子様は、エスコートしてくれません。

とてもシャイで、手を引くのも一苦労です。

私の王子様は、魔法のキスをできません。

ですが、毎朝目覚めのキスで、私を起こしてくれます。

私の王子様は、涙を見せません。

いつも笑って、大丈夫だよ、と囁きます。

私の王子様は、私を抱きしめて離しません。

耳元で、いつも、「ごめんね」と謝り続けます。

私の王子様は、手が氷のように冷たいです。

握り返してもくれません。

私の王子様は、笑ってくれません。

ずっと、眠っているから。

私の王子様は、たくさんの温かい人に見守られ、愛されています。

私はそんな彼が、大好きでした。

彼は私の中で、世界でたった一人の、王子様。

白馬や、大きな城なんてなくていい。

ただ、笑ってくれさえすれば、それでいいのです。

だから、もう一度・・・手を握ってほしいのです。

私の王子様に願いました。

「もう一度、目を覚ましてください。」と。

願いを込めて、最後の口づけを、交わしました。

・・・・・

・・・・・この世に魔法なんて、ありません。わかっています。

でも、この世には、一つ、魔法と呼ばれるべきものがあります。


「見て・・・息が・・・」


「・・・・・ん・・ここ、は・・・」


私の王子様は・・・綺麗な瞳をしています。いつも私を吸い込んで離しませんでした。


「・・・ただいま」


私の王子様は・・・、ようやく、笑ってくれました。


「おかえり・・・」


まだ少し冷たい手を握り、私は王子様に伝えました。


「“奇跡”って・・・本当に、あるんだね・・・」


まるで、魔法のような。

奇跡は、どんな形にでも変形することができます。

私の王子様は・・・それをきっと、持っていたのです。


私の王子様は、おとぎ話には出てきません。

しかし、おとぎ話にはない、最高の力を持っていました──。




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