うすのろちゃん(2)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/09/22 17:45:27
私の落下速度は、とにかく遅い。地面がいつまでも遠いので、沢山の人が私を追い越して行った。皆さんがご存知の通り、落下の加速度gが9.8/m^2より大きいか小さいかで、人間の価値は決まったも同然である。これがもう少しでも速かったら手で空間をかき分けて、みんなの背中を追う気にもなれたのかもしれない。だけど私の加速度は、私が持って生まれた唯一の特徴なのだった。
私ほど遅い人に出会ったことはなかった。少し似たスピードの人がいたとしたって、後から上から降ってきて、しばらくしたら落ちていく。だもんで、生来の性格も相まって、二十二歳のわたくしには、恋人はおろか、休日を共に過ごす友人もいない。
本日は良く晴れた祝日だったので、私は上から落ちてきた私より加速度の大きな黄色い果物を食べていた。孤独な私に文字通り降って湧いた『彼』がやってきたのは、そいつを飲み込んだ時だった。