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毒人参のジュース【短編】2




 何にも手が届かないのなら。

 何にも満たされることがないのなら。

 いっそ、この世界そのものが、最初から無かったことになればいいのに。




「お前、今日からお部屋を雲にあげてね」

 今にもぐずり出しそうな雨雲が、重く垂れこめている朝だった。
 湿った空気が頬を撫で、髪を乱す。
 いつも通りに微笑む母上からそう告げられたとき、世間知らずの幼い私に出来たのは、

「………………はい」

 ただ、言いつけを守ることだけだった。


 妹に王の座を奪われたのだと、数日してから気が付いた。
 通り過ぎざま、ヒソヒソ話をする下僕たちが、可哀想な目でこちらを見ていた。

 ――――貴方が王になるのよ。

 そう言ってくれたのは母だったのに。
 そう信じて生きてきたのに。
 誰よりも強く、立派なひとになりたかった。
 父親のように牛魔王の血筋を穢すような、愚かな者になりたくなかった。

 それから、遊びに誘う弟や妹を、無視するようになった。
 常に一線を引いて付き合うようになった。
 だれかれ構わず敬語を使うようになったのも、その時だった。

 誰も信じたくなかった。
 何も知らなければ、永遠に幸せで居られると思った。
 自分がこの世に生まれ落ちたその瞬間から、誰も幸せになんかなれないことに、ほんとは気づいてた。


「ねえお前たち、私は一足先にお釈迦様のところへ参ろうと思います」

 ただ暇だったから呼びつけた下僕たちに、何となくそう言いたくなって、言った。
 元牛魔王の言うことに、従順な兄弟はいつだって大真面目に返事を考える。

「……なら、共に参ります」

 そう零すのは兄で、静かに頷くのが弟だった。
 1人道を踏み外した気になった時から、ずっと傍に居てくれたのは、兄弟だけだった。
 ……違う。ほんとは、自分から離れていっただけだ。

 でも、どうして、
 一緒になんて居られただろう。

 こんなにも、
 気が狂うほど、
 憎んでいるというのに。

 この世の誰よりも憎らしかった。
 この世の誰よりも、

 誰よりも、



 ……ねえ。

 幸せになりたいと願うのは、そんなにも、いけないことなのでしょうか。




 血豆が出来るほど握った混鉄木も、
 青痣が出来るほど練習した金斗雲の操縦も、
 変化の術も、なにひとつ自分のものじゃなくて。

 ここに居る意味も、
 生きている理由も、
 生まれてきたわけも奪われて、

 ねえ。
 なにを信じて生きれば良いのですか。

 死ぬ勇気もなくて、
 生きていく術も知らないで、

 …………私は、なにひとつ、お前には勝てないんです。


 ねえ天威、せめて喧嘩くらい、私に勝たせて下さいね。


 それだけで、十分だから。




*****

オリジナル創作企画⇒七天大聖の子

【終わり】

#日記広場:自作小説

アバター
2016/09/04 01:52
>かな

悩んでて返事遅れちゃった(´・-・。)
コメありがとう。゚(゚ ˆωˆ ゚)゚。

要は死なばもろとも、みたいな感じなんだよね。
死にたがりだけど、誰よりも死ぬ勇気が無いのは霙なんだよなあって

あーーーそれもあるよね、お役目だと割り切っているけど、慕っているのは本当、というのは好み。
泣いてくれる人が居るのってほんとにありがたいんやなって……
アバター
2016/08/29 21:06
んんんんんん!!!!!!
霙サマが世界を壊したい理由に少し触れられた気がします。

何も知らなければ永遠に幸せにいられたけど、そこまで無邪気に馬鹿にはなれなかった…それ故に誰よりも、茨の道を進むわけですな。
兄弟も本当は傍にいてくれたんじゃなくて、霙サマ自身がそうであったかのように、そういう風に最初からできてるんだからこうなるのは当然だって思ってるんだろうなぁ、と勝手に思いました。
弟と妹に対する愛に近い憎悪が霙サマそのもので、いつの日にか分かり合える時が来るのかなぁと思いましたが
それはきっと、本当にお釈迦になってからですね、泣いちゃう。



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