「線路は続くよ」
- カテゴリ:30代以上
- 2016/06/20 10:49:44
# 道化師の笑顔
汽車が駅に着く
ホームの向こうは、土砂降りの雨。
車内販売員が言う。
「雨で、この先の川が渡れないようですので、しばらくここに停車するそうですよ」
道化師がホームへと降り立つ。
小さな街の小さな駅。
それでも、駅舎の中は、たくさんの人たちが行き交っていました。
「パンは如何ですか~。美味しいパンは如何ですか~」
雑踏の中、パン売りの声が聞こえます。
「やっぱり、こんな日は売れないわね」
ため息交じりの声。
「どうしました?」
道化師が声をかけます。
「こんな日ですからね。みなさん急ぎ足で・・・」
「そうですね。こんな美味しそうなパンなのに」
そう言って、道化師はパンを受け取ります。
「お、こりぁ本当に美味い!」
「ほう、どのくらい美味いのかね」
カウンターの上の人形が言います・・・もちろん、腹話術です。
「そりぁ、こうして球の上で小躍りするくらいさ」
どこから取り出したのか、道化師は、大きな球に乗り、踊りながらパンを食べ始めました。
「あら、危ないですよ」
これを言ったのはパン屋さん。
「大丈夫ですよ・・・おおっと」
球から転げ落ちる道化師。
球が、宙に舞い上がります。
「きゃあ!」
パン屋さんは、慌てて駆け寄ろうとします。
「なあに、心配はご無用。玉も、踊りたくなるくらい美味しいパンなのですよ」
ひっくり返った恰好のまま、見事に足で球を操る道化です。
「ははははは。見事な芸だ。それにパンも良い香りじゃないか。土産に一つ、買って帰ろう」
気がつけば、パン屋産の前には、たくさんの人が集まっていました。
「お母さん、ピエロのパン買って~」
「ねえ、わたし達も買っていきましょうよ。そこのベンチで座って食べたいわ」
「わしらも、孫に一つ買っていこうかの」
・・・
「本当にありがとうございました。おかげさまで・・・」
「あ!怪しいやつ、お母さんから離れろ!」
お礼を言いかけたパン屋さんの前に、男の子が立ちはだかります。
「こら。この人は道化師さん。パンを売るのを手伝ってくれたのよ」
「え?そうなの?ごめんなさい。でも、僕も道化師さんの芸見たかったな~」
「よし、それじゃあ、今からとっておきのをお見せしよう。素敵なナイト君へのご褒美だ」
「道化師さん、こちらにいらしたんですか?」
パン屋親子にとっておきの芸を披露している道化師に、車内販売員が声をかけます。
「申し訳ありません、この雨はしばらく止みそうにないとのことで、何日かここに停車することになりました」
「やった~。それじゃあ、明日もいるんだね。ねえ、それなら僕にも芸を教えてよ。そしたら、お母さんの手伝いも、もっと上手に出来ると思うんだ」
「ダメですよ。道化師さんだって忙しいんだから」
「ははは。大丈夫ですよ。僕の仕事はみんなを笑顔にすることなのだから」
「よし、それじゃあ、君にはジャグリングを教えよう」
次の日、パン屋産の前で通行人に芸を披露したあと、道化師が男の子に言います。
「ジャグリング?」
「まあ、お手玉みたいなものさ。見ててごらん」
道化師は10個のボールを取り出すと、両手で巧みに操ります。
「すごい!でも僕に出来るかな~」
「最初からたくさんは無理さ。まずは2つでやってごらん」
「あ、出来た!」
「よし。なかなか筋が良いぞ。次は三つに挑戦だ」
「わわ。急に難しくなったぞ」
「ここからは練習あるのみだ。出来たら、ひとつずつボールを増やしていくんだよ」
「あの子の我が儘につきあっていただいて、済みません」
男の子の練習を見守る道化師に、パン屋さんがコーヒーと一口パンを差し入れます。
「いやいや。僕も楽しいですから。お母さん思いの優しい子ですね」
「いたずらばっかりで、困ることの方が多いのですけどね」
「男の子はそれくらいの方が良いですよ。それにしても、いつ食べても美味しいパンですね~。それにコーヒーを入れるのもお上手だ」
「あら。褒めてもこれ以上なにもでませんよ」
パン屋さんは赤い顔です。
こんな風にして、日にちが過ぎていきました。
パン屋産の前で芸をして
男の子に芸を教えて
練習を見守りながらお話しして、笑い合って・・・
そして、気付けば、雨は少しずつ、小降りになっていきました。
長く降り続いた雨が止む。
「ヤダヤダ、行っちゃヤダよ~。僕、まだ4つしか出来てないよ。もっと教えてくれくれるって言ったじゃないか~」
ホームに男の泣き声が響き渡る。
「困らせてはダメ。道化師さんには素敵な夢があるのだから。どうぞ、行って下さい」
真っ赤な目で微笑みながらパン屋さんが言う。
「僕は・・・」
ドアの前に立つ車内販売員に振り返り、道化師が言う。
「僕はここで汽車を降ります。今までありがとう」
「いけません!あなたには夢があるのでしょう?みんなを、笑顔にするんじゃないのですかっ」
パン屋さんが叫ぶ。
道化師が、パン屋さんを見つめて言う。
「そのみんなの中に、僕がいてはいけませんか?」
汽車は走り続ける
次はどんな景色が待っているのだろう
つづく
いつもありがとう♪
このお話
実は、めぷちん♪さんのパン屋さんのブログから思いついたのです
(#^.^#)
今回の「道化師さんの物語」も~面白いですね~^^
そして胸がほっこりしました~^^
最初は、若いパンの売り子さんと道化師の物語かと思いましたが…
お子さんが居たのですね…
それでお母さんだと気が付きました^^
ただの道化師さんの親切で終わらないで…
素敵な愛の物語に終わり~最後昔を、思い出し…ちょっとドキドキしました^^
話のもって行き方も本当にうまい~
いつも感動と感銘です~(^^)b
最初BGMは「道化師のソネット」が良いかなぁ~と
思っていましたが…
最後は、違う曲が良いかなぁ~と考え直しました。